平成25年度主要成果
高CO2濃度によるイネ葉身の光合成増加は高水温条件で抑制される
−開放系大気CO2増加と水地温上昇処理の実験から−
- [要約]
- 約50年後に想定される高CO2(現在+200ppm)条件で水温を2℃上昇させた実験から、温暖化条件では、イネの窒素吸収は盛んになりますが、生育後半になると葉身窒素が低下し、高CO2濃度による光合成の促進程度が低下することが分かりました。
- [背景と目的]
- 大気CO2濃度を高めると、イネの光合成は促進されますが、高CO2濃度条件で生育した植物は、生育後半に光合成の促進程度が低下することが知られています。しかし、光合成の応答低下が、温度条件によってどのように影響されるかについては十分に理解されておらず、温暖化の影響評価における不確実要因となっていました。そこで、世界で初めて開放系大気CO2増加(FACE)実験と水温上昇処理を組み合わせて、高CO2濃度による光合成の促進が、温度条件によってどのように変化するかを調査しました。
- [成果の内容]
- 50年後に想定される大気CO2濃度(約580 ppm)と温度条件(水温を2℃上昇)注1)を屋外水田で実現し、イネ品種「あきたこまち」の葉身光合成速度を3生育時期に測定しました(図1)。高CO2濃度(FACE)処理は、いずれの生育時期にも光合成速度を増加させましたが、加温処理は登熟中期の光合成速度を低下させました。その結果、登熟中期におけるFACE・加温処理区の光合成速度は、対照(現在の)CO2・無加温区に比べて4%高いだけにとどまりました。測定部位のCO2濃度条件を同一にして登熟中期の光合成速度を比較すると、FACE・加温条件で生育したイネは、対照CO2・無加温区で生育したイネに比べて23%低い値を示しました(図2a)。これには、加温とFACE処理によって葉身窒素や光合成活動で最も重要な酵素、Rubisco注2)含有量が低下したことが関連していました(図2b)。加温区では作物全体の窒素吸収は高まりましたが(図2c)、登熟中期の葉身の窒素の分配割合は、FACE・加温区で低下した(図2d)ことから、FACE・加温条件は、生育後期に葉身窒素を低下させ、光合成能力を低下させることが分かりました。将来の気候変化に対するイネの生育・収量応答を予測する上で有用な知見です。
- 注1)水温は水稲栽培に重要な温度条件で、温暖化に伴って上昇することが予測される。
- 注2)光合成におけるCO2固定反応を触媒する酵素。
本研究は農林水産省プロジェクト「農林水産分野における地球温暖化対策のための緩和および適応技術の開発」および文部科学省科学研究費. 22114515」による成果です。
リサーチプロジェクト名:作物応答影響予測リサーチプロジェクト
研究担当者:大気環境研究領域 長谷川利拡、安立美奈子(現:(独)国立環境研究所)、酒井英光 物質循環研究領域 常田岳志 深山 浩(神戸大学)、中村浩史(太陽計器(株))、松波寿典(秋田県農業試験場)、鮫島良次((独)農研機構・東北農研、現:北海道大学)、岡田益己(岩手大学)
発表論文等:1) Adachi et al. Plant and Cell Physiol ., 55: 370-380 (2014)