平成25年度主要成果
多収性イネ品種「タカナリ」の高い光合成能力は高CO2濃度条件でも発揮される
- [要約]
- 多収性品種の「タカナリ」は、高CO2濃度条件においても「コシヒカリ」に比べて高い光合成速度を示したことから、将来想定される高CO2濃度条件においても多収を得るための有望な形質を持つことがわかりました。
- [背景と目的]
- 現在のCO2濃度環境で「コシヒカリ」など一般のイネ品種よりも多収である「タカナリ」は、高CO2濃度条件でも多収を示すことが分かってきましたが、そのメカニズムについては十分に把握されていませんでした。本研究では、CO2濃度が直接的に影響する光合成過程に着目し、開放系大気CO2増加実験で「タカナリ」と「コシヒカリ」の比較を行いました。
- [成果の内容]
- 茨城県つくばみらい市の開放系大気CO2増加(FACE)実験施設で、おおよそ50年後に想定される大気CO2濃度(約580 ppm)区画を設け、多収性インディカ品種の「タカナリ」と標準的なジャポニカ品種「コシヒカリ」の葉身の光合成とその関連形質を異なる生育ステージに調査しました(図1)。その結果、高CO2濃度は両品種の光合成を促進しましたが、いずれのステージにおいてもタカナリの光合成はコシヒカリのそれを大きく上回りました。また、タカナリでは、コシヒカリに比べて気孔コンダクタンス 注1)、葉身の窒素および Rubisco 注2) の含有量が高く保たれました(図2)。すなわち、タカナリは、高い気孔コンダクタンスでCO2を多く取り入れるとともに、葉身の窒素栄養条件が良好であるため、カルビン回路における主過程を促進することで、異なるCO2濃度条件でも光合成を高く保つことができるものと考えられます(図3)。「コシヒカリ」などの品種には無いこうした性質が、タカナリが高CO2濃度条件でも多収を得る要因の一つと考えられます。以上の結果は、変わりゆく大気CO2濃度条件で多収性品種を開発する上で有用な知見となります。
- 注1)気孔の開き具合を示す指標で、コンダクタンスが大きいほど気孔の開き方が大きく、大気から葉内へCO2を取り込みやすい。
- 注2)リブロース−1,5−ビスリン酸カルボキシラーゼ/オキシゲナーゼの略称で、光合成におけるCO2固定反応を触媒する酵素。Rubisco 中の窒素は葉中の窒素の約1/3を占める。
本研究は農林水産省プロジェクト「農林水産分野における地球温暖化対策のための緩和および適応技術の開発」および文部科学省科研費 24114711 による成果です。
リサーチプロジェクト名:作物応答影響予測リサーチプロジェクト
研究担当者:大気環境研究領域 酒井英光、Chen Charles P (現:Azusa Pacific大学)、臼井靖浩、長谷川利拡、物質循環研究領域 常田岳志、中村浩史(太陽計器(株))
発表論文等:1) Chen et al., Plant and Cell Physiol., 55: 381-391 (2014)