農業環境技術研究所刊行物研究成果情報平成25年度 (第30集)

平成25年度主要成果

ビオトープにおける水生昆虫の多様性は水底への泥の堆積によって低下する

[要約]
水路と池から成るビオトープにおける水生昆虫の種数は、造成後の年数とともに、初めは増加しましたが、泥の堆積によって減少しました。水生昆虫の多様性を保全するためには、浚渫など、生息環境を悪化させない管理が必要です。
[背景と目的]
水辺の生物保全のために、各地にビオトープが造られています。しかし、造成後の生物多様性の変化やビオトープ管理が生物多様性に及ぼす影響についてはほとんど研究されていません。そこで、水戸市に造成されたビオトープにおいて、水生昆虫を対象に、造成後の年数による種数の変化、およびその変化とビオトープ管理との関係を明らかにするために調査を行いました。
[成果の内容]
茨城県水戸市にある財団法人鯉淵学園農業栄養専門学校の構内において、2004年4月に造成された、水路や池から成るビオトープ(図1)で、2006年からトンボ類成虫および水生昆虫(水生コウチュウ類成虫・幼虫、水生カメムシ類成虫・幼虫、トンボ類幼虫)の調査を行いました。
トンボ類成虫および水生昆虫の種数は、2007年には2006年より増加しました(図2)。この原因は、周辺から移入した種が徐々に定着したこと、水路や池内の水生植物および周辺の陸生植物が増加・成長して昆虫類にとっての生息環境が好適になったことが考えられました。
しかし種数は、2008年には減少しました。減少の原因として、水路や池の水底に泥が堆積して水生昆虫類にとっての生息環境が悪化したことが考えられたため、2008年12月に水路および池の全体にわたって浚渫(泥の掘り上げ)を行ったところ、トンボ類は2009年から、水生昆虫は2010年から種数が再び増加しました(図2)。また2008年に見られなくなった種が2009年以降に再び出現したこと(表1)、2009年以降のトンボ類の種構成が2007年と類似していたこと(表2)から、浚渫によって水生昆虫の種構成が種数減少前の状態に回復したことが分かりました。
造成から4年後に浚渫が必要になったことから、ビオトープの生物多様性を保全するためには、生息環境を悪化させないような管理が必要であることが分かりました。
この研究で得られた、昆虫種数の経年変化とビオトープの生息環境や管理との関係は、今後のビオトープの造成や管理に活用されることが期待されます。
リサーチプロジェクト名:生物多様性評価リサーチプロジェクト
研究担当者:生物多様性研究領域 田中幸一、浜崎健児(現:大阪府立環境農林水産総合研究所)、研究技術支援室 松本公吉(故人)、鎌田輝志
発表論文等:1) 田中ら、昆蟲(ニューシリーズ)、16: 189-199 (2013)

図1 ビオトープの構成

図2 各年に確認されたトンボ類成虫(左)と水生昆虫(右)の種類の変化

表1 2008年に見られなくなった種類と2009年以降再出現した種類/表2 トンボ類成虫種構成の類似度

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