農業環境技術研究所刊行物研究成果情報平成25年度 (第30集)

平成25年度主要成果

霞ヶ浦におけるカワヒバリガイの分布拡大を予測
−2018年には湖岸全域に定着−

[要約]
2005年に霞ヶ浦での生息が確認された特定外来生物カワヒバリガイは、2012年6月にはすでに湖岸の約8割に分布していることが明らかになりました。過去の分布拡大の状況から、2018年までに湖岸全域に定着すると予測されます。
[背景と目的]
2005 年、関東地方でカワヒバリガイの生息が初めて確認され、現在一部の地域では通水障害などの被害が発生しています。しかし、広範囲を対象とした継続的な定量調査は十分行われておらず、分布や密度が拡大傾向にあるのか、あるいは落ち着いているのかなどについて明らかになっていませんでした。
農環研と東邦大学の研究チームは、2012 年に霞ヶ浦の湖岸全域を対象とした生息調査を行い、その結果を2006年の調査結果と比較することで、カワヒバリガイの生息域と密度が過去6年間でどのように変化したのか、これからどうなっていくのかを予測しようと考えました。
[成果の内容]
2012 年の 5 月から 6 月にかけて霞ヶ浦湖岸全域でカワヒバリガイの生息状況を調査しました(図1)。その結果、調査した 125 地点のうち 104 地点(83.2%)でカワヒバリガイが見つかりました(図2)。2006 年に行った調査の結果と比較すると、採集個体数の平均値は 3.8 倍に増加していました。
また、霞ヶ浦の湖岸線を 2 km 単位に区分し、そこに 2006 年と 2012 年の調査で得られた分布データを割り付けて6年間の分布拡大距離を推定したところ、その値は約 10 kmであることが明らかになりました。この値を元に計算すると、6年後の 2018 年には、2012 年の調査でカワヒバリガイが生息していなかったすべての地点に、99%以上の確率でカワヒバリガイが定着することが予測されました(図3)。
今回の結果は、霞ヶ浦湖内全域にカワヒバリガイが急速に拡大・増加しつつあることを示しています。霞ヶ浦の水は茨城県南部を中心とする広い範囲で利用されており、一部の地域ではすでにカワヒバリガイの発生に伴う通水障害などが発生しています。水利用の現場においては、今後新たな侵入のモニタリングを行うとともに、既に定着している地域では密度に応じた被害対策が必要になると考えられます。
本研究の一部は JSPS 科研費 23710285 による成果です。
リサーチプロジェクト名:遺伝子組換え生物・外来生物環境影響評価リサーチプロジェクト
研究担当者:生物多様性研究領域 伊藤健二、瀧本岳 (東邦大学)
発表論文等:1) 伊藤健二、瀧本岳、日本ベントス学会誌、68: 42-48 (2013)

図1 (上)A:カワヒバリガイ、B:霞ヶ浦湖岸で採集されたカワヒバリガイ集団/図2 (右)霞ヶ浦湖岸におけるカワヒバリガイの調査地点別生息密度

図3 霞ヶ浦湖岸におけるカワヒバリガイの分布域の変化(左:2006年・2012年)と将来予測(右:2018年)

目次へ戻る   このページのPDF版へ