農業環境技術研究所刊行物研究成果情報平成25年度 (第30集)

平成25年度主要成果

キシロースを用いた生分解性プラスチック(生プラ)分解酵素の大量生産

[要約]
酵母 Pseudozyma antarctica がキシロース存在下で生プラ分解酵素 PaE を大量に分泌することを見つけました。ジャー培養装置でキシロースを連続添加する方法により、市販生プラフィルムを溶かす酵素を大量生産できます。
[背景と目的]
農業従事者の老齢化と働き手の不足、および企業による大型農場の展開には、農作業の省力化技術が必要です。生プラ製マルチフィルムは、使用後に畑に鋤込めば、土壌微生物により完全分解されるため、資材を回収・廃棄する労力を削減できます。本研究は、生プラマルチを急速劣化させる特徴を持つ酵素の大量生産を目的としています。
[成果の内容]
当研究所では、これまでに作物葉表面から生プラ分解酵母 P. antarctica を見出し、この酵母が強力な生プラ分解酵素 PaE を分泌することを明らかにしています。この酵素を大量生産することができれば、生プラマルチの分解が不十分な時に、酵素を処理し、畑への鋤き込みが可能な程度にマルチを急速劣化させることが期待できます。その結果、農作業が省力化されるとともに、畑が効率よく使えます。そこで、生プラ分解酵素PaEを量産する方法を開発しました。
まず、高濃度のPaEを大量に生産する培養条件を検討しました。P. antarctica に様々な炭素源を与え、キシロースを含む培地でPaE分泌量が高まることを見つけました(図1)。次いで、作物の表面から分離された P. antarctica のうち、キシロースを基質として PaE 生産力が高い株を取得・選抜しました。
選抜した P. antarctica から PaE(酵素=タンパク質)を大量に分泌させるためには、タンパク質の原料となる栄養をたくさん与える必要があります。そこで、ジャー培養装置(5L容)を用いて、培養液中の栄養(キシロース+他の栄養成分)が、適正な濃度になるように少しずつ栄養を連続添加する流加培養法により、従来比 100 倍濃度の PaE(21 U/ml)を生産させることに成功しました(図2)。また、培養液の 2/3 量を 24 時間ごとに新鮮な培地と交換する半回分連続式の流加培養により、酵素生産効率を従来比4万倍(0.34 U/ml/h)に高めることもできます(図3)。
PaE 活性が1〜2 Uになるように希釈した培養液中で、市販の生プラマルチ(1cm×1cm、厚さ20 μm)は、速やかに分解されました(図4)。今回確立した高濃度の分解酵素の大量生産技術は、使用済み生プラマルチ分解促進への利用が期待されます。
リサーチプロジェクト名:情報化学物質・生態機能リサーチプロジェクト
研究担当者:生物生態機能研究領域 北本宏子、渡部貴志、小板橋基夫、吉田重信
発表論文等:1) Watanabe et al., J. Biosci. Bioeng., 117: 325-329 (2014)

図1 酵母P.antarcticaは各種炭素源のうち、キシロースで生プラ分解酵素PaEを著量分泌します(フラスコ培養)。/図2 キシロースを用いた流化培養(ジャー培養)でPaEが従来比100倍濃度(21U/ml)生産できました。

図3 基質にキシロースを用いた半回分連続培養により、PaEを効率よく生産し続けることが可能となりました。

図4 PaEを含む培養液を希釈した液で、市販生プラマルチフィルム(1cm四方)を速やかに分解することができます。

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