農業環境技術研究所刊行物研究成果情報平成25年度 (第30集)

平成25年度主要成果

LEACHM の改良による黒ボク土畑からの窒素溶脱予測

[要約]
窒素溶脱予測モデル LEACHM 内の有機物分解や硝酸イオン吸着などに関わるモデル基本構造の改良およびパラメータ設定を行うことにより、黒ボク土畑からの窒素溶脱に対するモデル予測精度が大幅に向上しました。
[背景と目的]
作物生産性を維持しつつ、農地からの窒素溶脱を軽減する方法を提示するためには、様々な農地管理のシナリオ分析を圃場レベルで実施できるモデルが必要です。しかし、日本の畑面積の約半分を占める黒ボク土からの窒素溶脱を中長期的に予測できるモデルは国内外に存在しませんでした。本研究では、主に海外で非黒ボク土畑に適用されてきた LEACHM(Leaching Estimation and Chemistry Model)を用いて、黒ボク土における多量の腐植蓄積や硝酸イオン吸着などが考慮できるようにモデルの基本構造の改良及びパラメータ設定を行いました。そして、長期ライシメータ試験による実測値と予測値を比較し、改良 LEACHM モデルの黒ボク土畑への適用性を検証しました。
[成果の内容]
黒ボク土における土壌有機物の分解過程を表現するため、土壌炭素動態モデルとして実績のある RothC 及び改良 RothC に準じて、LEACHM 内の有機態炭素動態に関わる基本構造を改良しました(図1左)。作物残渣炭素プール内に分解性の異なる2つのプールを作成するとともに、非黒ボク土の腐植炭素プール内には不活性な炭素プールを作成しました。各炭素プールの無機化速度定数や各プールへの炭素の分配割合を決める定数についても、RothC 及び改良 RothC に準じてパラメータを設定しました。さらに、黒ボク土中の硝酸イオン移動が陰イオン吸着によって水移動より遅れることを表現するため、土壌の層別に硝酸イオンの固液分配係数を設定しました(図1右)。
化学肥料を約4年間連用した黒ボク土の畑ライシメータ試験結果を用いて、改良後の LEACHM の適用性を検証したところ、溶脱窒素濃度の予測誤差(RMSE)はオリジナル版の約3分の1に減少し、予測精度が向上しました(図2)。なお、非黒ボク土(砂丘未熟土)へもモデル適用し、改良前後の RMSE 値がほぼ同じであることを確認しています。
本研究の成果は、黒ボク土と非黒ボク土を共に含む流域内の圃場レベルを対象として、農地からの窒素溶脱を軽減するための農地管理シナリオ策定などに貢献します。本モデルの利用希望者は、研究担当者までご連絡下さい。
本研究の一部は、農林水産省気候変動対策プロジェクト研究「気候変動に対応した循環型食料生産等の確立のための技術開発(第1分野)A農林水産分野における温暖化緩和技術及び適応技術の開発」による成果です。
リサーチプロジェクト名:化学物質環境動態・影響評価リサーチプロジェクト
研究担当者:物質循環研究領域 朝田 景、江口定夫、浦川梨恵子(現:東京大学)、板橋 直、青木和博、中村 乾、加藤英孝、松丸恒夫(千葉県農林総合研究センター)、永沢朋子(同左)
発表論文等:1) Asada et al., Plant and Soil, 373: 609-625 (2013)

図1 LEACHM内のモデル基本構造の改良及びパラメータ設定の概要

図2 黒ボク土畑からの浸透水中の無機態窒素濃度の実測値とオリジナル及び改良LEACHMモデルによる予測値の比較

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