農業環境技術研究所刊行物研究成果情報平成25年度 (第30集)

平成25年度主要成果

衛星搭載合成開口レーダによる水稲生育・収量特性の広域評価手法

[要約]
衛星搭載の合成開口レーダを作物・農地情報計測に適用するため、センサや観測時期が異なっても情報の一貫性を確保するデータ解析手法を提案するとともに、水稲の生育・収量形質の評価に有効な新たな手法を開発しました。
[背景と目的]
作物・農地の診断や収量評価に必要な生育・収量に関する情報を、適時に広域かつ精度よく把握するためには、雲の影響を受けずに地表面を観測できる合成開口レーダ(SAR)の利用が期待されています。そこで、近年利用可能になった周波数と地上解像度の高いXバンドとCバンドの衛星SARセンサによる信号を、作物・農地情報の広域・適時計測に効果的に利用するための基礎的な関係と評価手法を追究しました。
[成果の内容]
  1. 衛星搭載のXバンドセンサ(周波数9.6GHz: CSKおよびTSXの2つの衛星)とCバンドセンサ(同5.4GHz: Radarsat-2の衛星)の合成開口レーダ(SAR)を用い、4カ年にわたって稲の主要な生育時期(移植、幼穂形成期、登熟期、収穫期)に水田を観測し、同期測定した生育形質や圃場状態との関係を解析しました。
  2. SARセンサによって観測される信号(後方散乱係数σ0)は、一定の観測条件(偏波、入射角等)では一貫性が高いものの、CSKとTSXの間には同様な観測条件でもセンサ固有の大きな系統的差異が認められました。そこで、このようなセンサ間の差異を解消するため、画像内開放水面のσ0値を基準としてデータを相対値として正規化する方法(Waterpoint法)を提案しました(図1)。
  3. この方法により、2つのXバンドセンサの系統的な差異によらず、σ0と作物形質との間に共通的な関係が得られることが分かりました。そして、登熟期水稲群落では、Xバンドσ0が穂の重量に対して最も明瞭な感度を持つことが見出されました(図2)。
  4. Cバンドのσ0は、群落光合成の鍵となる光吸収能fAPARおよび葉面積指数LAIとの間には密接な関係をもつことが明らかになりました。これにより、雲の影響で観測頻度に制約のある光学センサにかわって、これらの重要特性を適時あるいは時系列的に評価することが可能です(図3)。
現在すでに多くの衛星SARセンサが利用可能で、今後も多くの打ち上げ計画があります。本研究で得られた知見と手法は、今後、多様な衛星SARを作物・収量情報の収集に応用するうえで重要な役割を果たします。
本研究の一部は文科省宇宙利用促進調整委託費「食糧-環境分野での広範な利用を支える地球観測衛星群による生態系監視基盤技術の創出」およびJSPS科研費22380142によるものです。
リサーチプロジェクト名:農業空間情報・ガスフラックスモニタリングリサーチプロジェクト
研究担当者:生態系計測研究領域 井上吉雄、境谷栄一(青森県産業技術研究センター)
発表論文等:1) Inoue et al., Remote Sens. Environ., 140: 257-266 (2014)
2) Inoue et al., Remote Sens. Letters, 4: 288-295 (2013)

図1 水田地帯を対象に観測した衛星SARによる後方散乱係数σ0の特性

図2 衛星搭載のXバンドSARセンサから得られた後方散乱係数と光吸収能(a)と葉面積指数(b)の関係

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