平成25年度主要成果
次世代型土壌病害管理(ヘソディム)のためのマニュアル
- [要約]
- 従来の「カレンダー防除」に代わる土壌病害対策として、病害発生のしやすさの診断と評価および対策を支援するためのマニュアル、「土壌の病害の発生ポテンシャルの評価に基づく土壌病害管理(ヘソディム)」を作成しました。このマニュアルの活用により、土壌くん蒸剤等の農薬投入量の低減等が図れます。
- [背景と目的]
- 近年、土壌から直接抽出したDNA(土壌eDNA)の解析技術が進み、従来の土壌理化学性に土壌生物性を加えて土壌を評価できるようになりました。今回、そうした技術を取り入れた土壌病害管理マニュアルを作成しました。一般に、土壌くん蒸などの対策は播種前に講じる必要があります。このため、発病が懸念される畑では、一斉防除(カレンダー防除)が実施され、畑によっては「過剰な」防除がされている場合もあります。そこで、本研究では、ヒトの健康診断のように、複数の診断項目を用いて病害の発生のしやすさを評価し、それに応じた対策を講じて、薬剤利用の低減を目指すという戦略作りに役立つマニュアルを作成しました。
- [成果の内容]
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- 「診断」、「評価」、「対策」の項目をカルテ化し土壌病害管理(ヘソディムHealth checkup based Soil-Borne disease Management:HeSoDiM)する考え方(図1A)を解説したマニュアルを作成しました。なお、本マニュアルはCD-ROMで配布可能です。利用希望の方は、研究担当者までお問い合わせください。
- 「診断」では、病害毎に前作発病度、病原菌検出、土壌生物性(eDNA評価)や土壌理化学性(図1B)、発病しやすさの検定等から最適な診断項目を選抜し、診断票等にまとめます。
- 「評価」では、それら診断結果と栽培管理等の聞き取り情報を基に総合評価して、畑の病害発生ポテンシャルを原則3段階(例:発生ポテンシャルが低い場合:レベル1、中の場合:レベル2、高い場合:レベル3など)で評価します。
- 「対策」では、レベル毎に防除技術をリスト化し、評価結果に応じた防除技術を提示します。たとえば、レベル1では土づくりによる発病抑止土壌の活用、レベル2では生物農薬の活用などとして土壌くん蒸処理は不要とし、レベル3では土壌くん蒸処理を行うなど、レベルに応じた技術を提案します。
- ヘソディムの考え方を用いることにより、従来のカレンダー防除では問題となっていた「無駄な防除」を減らすとともに、レベル1,2においては従来薬剤ほど効果がないために活用され難かった技術(各種資材、生物農薬、抑止土壌等)の有効な活用が可能になります。
- 現在、キャベツ根こぶ病等の土壌病害毎に本マニュアルに基づき作成された指導者向けマニュアルがいくつかの県で作成されました。なお、診断票の作成のためのソフトウエアは、今後Webで公開する予定です。
本研究は農林水産省委託プロジェクト研究「気候変動に対応した循環型食料生産等の確立のためのプロジェクト」による成果です。
リサーチプロジェクト名:農業環境情報・資源分類リサーチプロジェクト
研究担当者:生物生態機能研究領域 吉田重信、農業環境インベントリーセンター 對馬誠也、大澤剛士、松下裕子
発表論文等:1) Tsushima, JGPP, 80(5) (2014)