農業環境技術研究所刊行物研究成果情報平成25年度 (第30集)

平成25年度主要成果

植物の土壌病害への抵抗性を強くする細菌株の選抜

[要約]
土壌病害に対する微生物農薬として有望な細菌2菌株を、当研究所の作物生息微生物インベントリーから選抜しました。両細菌株をトマト苗の根部に処理することで、根腐萎凋病が抑制されること、植物体の病害抵抗性が誘導されることを明らかにしました。
[背景と目的]
微生物農薬の利用は、化学合成農薬の使用量削減や環境保全型農業の推進に役立ちますが、土壌病害に対して開発された種類は少なく、更なる開発が求められています。そこで、トマトの重要土壌病害である根腐萎凋病を対象に、微生物農薬として活用できる微生物株を探索・選抜し、その圃場での効果や発病抑制機構の解明を行いました。
[成果の内容]
農環研保有の健全トマト植物体から分離された微生物株の懸濁液をトマト苗の根部に処理後、病原菌に汚染された土壌を充填したポットに移植した結果、Paenibacillusに属する細菌2菌株(12HD2株、42NP7株)が、根腐萎凋病の特徴である根部の褐変を軽減することを明らかにしました(図1)。この2菌株の発病抑制効果は、細菌懸濁液を定植前の苗の根部に灌注しておくことで、圃場でも有意に発病を抑制しました(図2)。この2菌株の特徴は、1.病原菌に直接的な抗菌活性を示さないこと、2.根面への定着能が高いこと、3.処理した根部で低分子抗菌性成分の蓄積が見られること、さらに、4.根部処理で植物体の根や葉における病害抵抗性関連タンパク質遺伝子の発現が有意に高まること(図3)等から、細菌が根部に定着することで、ちょうど免疫力が高まったかのように植物の病害抵抗性が全身的に誘導され、発病が抑制されると考えられました。
今回選抜した2菌株は、生存性が優れ大量培養も容易なことから、これらを用いることで、適用がある農薬の種類が少ない土壌病害に対する新たな微生物農薬を開発できる可能性があります。また、これらは植物の病害抵抗性を全身的に引き起こすため、土壌病害だけでなく地上部病害にも利用できる可能性も期待されます。
本研究は農林水産省委託プロジェクト研究「気候変動に対応した循環型食料生産等の確立のためのプロジェクト」による成果です。
リサーチプロジェクト名:農業環境情報・資源分類リサーチプロジェクト
研究担当者:生物生態機能研究領域 吉田重信、佐藤育男(現:名古屋大学)、岩本豊(兵庫県立農技センター)、相野公孝(兵庫県立農技センター)、農業環境インベントリーセンター 對馬誠也
発表論文等:1) 岩本ら、関西病虫研報、55: 67-69 (2013)
2) Sato et al., Microbe Environ., doi:10.1264/jsme2.ME13172

図1 微生物インベントリー保存菌株(Paenibacillus sp. 12HD2株)のトマト根腐萎凋病の発病抑制効果

図2 Paenibacillus sp. 42NP7株および12HD2株の圃場におけるトマト根腐萎凋病の発病抑制効果

図3 Paenibacillus sp. 42NP7株および12HD2株を根部に処理したトマト苗における病害抵抗性関連遺伝子の発現(RT-PCRにより解析)

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