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平成26年度主要成果

エルニーニョ/ラニーニャの発生による
主要作物収量への影響見通しを得るための全球マップ

[要約]

エルニーニョ/ラニーニャが主要作物の収量に与える影響の全球マップを作成しました。気象庁などが発表するエルニーニョ/ラニーニャ予測と併用することで、エルニーニョ、またはラニーニャ発生時の収量影響の見通しを本マップから得ることができます。

[背景と目的]

気温と土壌水分量から不作を収穫3カ月前に予測する手法(平成25年度主要成果)はコムギとコメには適用可能ですが、トウモロコシとダイズでは予測精度が高くありませんでした。そこで、既存研究においてアルゼンチンなどの特定地域に適用された手法を参考に、トウモロコシやダイズにも適用できる簡易な収量変動予測手法として、エルニーニョ/ラニーニャが主要作物の収量に与える影響の全球マップを作成しました。

[成果の内容]

収穫前3カ月平均の熱帯東部太平洋の海面温度が平年より 0.5 ℃以上高い年をエルニーニョ年、平年より 0.5 ℃以上低い年をラニーニャ年、いずれでもない年を通常年とし、約 120 km メッシュ別、作物別に 1982〜2006 年の各年を上記のいずれかに区分しました。エルニーニョ年に該当した年の平均収量と通常年の平均収量との差を、その統計的な有意性を考慮してマップに示しました。ラニーニャ年と通常年との差についても同様です。

エルニーニョ年には、通常年と比べて顕著(統計的に有意)な収量の低下と増加が広範な地域で見られました(図1)。トウモロコシ収量は米国などで低下し、ブラジルで増加しました。ダイズ収量は米国とブラジル、アルゼンチンで増加し、インドで低下しました。コメは中国南部で収量が低下し、コムギはオーストラリアなどで収量が低下しました。

一方、ラニーニャ年に収量が顕著に低下または増加する地域はエルニーニョ年よりも限定的ですが、トウモロコシとコムギでは、世界の収穫面積の10%以上の地域で顕著な収量低下が見られました(図2)。トウモロコシは特に米国やアルゼンチン、メキシコで収量が低下し、コムギはオーストラリアの北東部や中央アジア、メキシコで収量が低下しました。

エルニーニョ/ラニーニャ予測は精度が高く、海洋研究開発機構アプリケーションラボや気象庁などから簡単に予測情報を得ることができます。それらの予測情報と本マップを組み合わせることで、エルニーニョないしはラニーニャの発生が見込まれる場合に、収量低下の可能性がある作物・地域についての見通しを得ることができます。解像度の高い図の利用をご希望の場合は、研究担当者までお問い合わせ下さい。

本研究は環境省環境研究総合推進費「気候変動リスク管理に向けた土地・水・生態系の最適利用戦略」による成果です。

リサーチプロジェクト名:食料生産変動予測リサーチプロジェクト

研究担当者:大気環境研究領域 飯泉仁之直、生態系計測研究領域 櫻井玄、佐久間弘文((独)海洋研究開発機構アプリケーションラボ)

発表論文等:1) Iizumi et al., Nature Comm., 3712, doi:10.1038/ncomms4712, (2014)

図1 通常年と比較した場合のエルニーニョ年の平均の穀物収量の変動

図2 通常年と比較した場合のラニーニャ年の平均の穀物収量の変動

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