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平成26年度主要成果

ダイズの主要生産国における収量変化の要因解析

[要約]

農環研が開発した広域の作物収量予測モデル(PRYSBI-2)を利用して、ダイズの主要生産国における過去の収量変化の要因解析を行いました。アメリカ合衆国や中国では気温上昇で負の影響を受けていましたが、二酸化炭素の増加による作物生長の増進(CO2 施肥効果)によって、気温上昇の負の影響が緩和されていました。一方、気温上昇の負の影響が目立たないブラジルでは、CO2 施肥効果により収量が増加していました。

[背景と目的]

将来予測される環境変化によって、世界各地の農業がどのような影響を受け、世界の食料安全保障の状況がどのように変化していくのかが注目されています。その中で、過去に既に起きた気候変化によって作物の収量がどのような影響を受けたのかを解析することは非常に重要な課題です。本研究では、農環研が開発した作物収量予測モデル(Process-based Regional-scale Yield Simulator with Bayesian Inference 2: PRYSBI-2)を用いて、ダイズの主要生産国における収量変化の要因解析を行いました。

[成果の内容]

本研究では、まず、ダイズの広域レベルの収量を予測することができるプロセスベースの数理モデル(PRYSBI-2)を開発しました。このモデルは日々の気温や降水量、日射量、湿度などの気象要因から、光合成過程などを予測し、作物の日々の生長を模倣し、収量を予測する数理モデルです。各国の郡レベルの収量統計データを利用して、約120kmメッシュごとに、高温感受性などを調節することでモデルを最適化しているため、広い地域において、作物の収量の年変化を精度良く再現することができる新しいコンセプトの全球の作物収量予測モデルです(図1)。

このモデルを利用して、過去の気候変化や栽培技術の改善が主要生産国(アメリカ合衆国、ブラジル、中国)におけるダイズの収量へ及ぼした影響を評価しました。過去の気象値を用いたシミュレーション実験と過去の気候変化のトレンドを除去した気象値を用いたシミュレーション実験を比較した結果、過去四半世紀(1980年から2006年まで)の大気中 CO2 の上昇(約 40 ppm)による CO2 施肥効果によって、アメリカ合衆国、ブラジル、中国での収量がそれぞれ、4.3%、7.6%、5.1%増加していたことが明らかになりました。また、その影響に大きな地域差があることも示されました(図2)。さらに、国レベルで集計した場合、アメリカ合衆国と中国では、CO2 施肥効果は気温上昇による負の影響を補完していたことが示されました(図3)。過去の気温上昇の影響がむしろ正であったブラジルでは、総合して過去の気候変化は収量に正の影響を与えていることが示唆されました。

本研究は、環境省環境研究総合推進費「気候変動リスク管理に向けた土地・水・生態系の最適利用戦略」とJSPS科研費(25119723)による成果です。

リサーチプロジェクト名:食料生産変動予測リサーチプロジェクト

研究担当者:生態系計測研究領域 櫻井玄、大気環境研究領域 西森基貴、飯泉仁之直、横沢正幸(静岡大学)

発表論文等:1) Sakurai et al., Sci. Rep. 4(4978): 1-5 (2014)

図1 PRYSBI-2の精度/図2 PRYSBI-2により推測された、CO<sub>2</sub>施肥効果

図3 各気象要因の収量への影響と技術的な変化による収量の変化の比較

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