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平成26年度主要成果
日本各地の水田土壌由来の様々な細菌に共通して見いだされた除草剤 2,4-D の分解遺伝子群を有する大型プラスミドの全塩基配列を解析し、その構造を明らかにした結果、細菌間の遺伝子伝播に関わる既知のプラスミドとは異なる特徴を有していました。
細菌は、プラスミド等の遺伝子伝達因子を外部より獲得することで、PCB等の難分解物質の分解能や薬剤耐性を獲得すると考えられています(図1)。このような微生物の遺伝子獲得機構の解明は、分解遺伝子等を導入した有用微生物の育種に役立つばかりでなく、自然界における薬剤耐性菌の蔓延の実態を明らかにする上でも重要です。本研究では、日本の水田で除草剤 2,4-D の分解遺伝子群を細菌間に伝播したと考えられる大型プラスミドの全塩基配列を決定し、このプラスミドが有する遺伝子伝播に関与する遺伝子群を既知のプラスミドと比較しました。
水田由来の 2,4-D 分解菌 Burkholderia sp. M701 株が保有する大型プラスミド pM7012 の全塩基配列を解析し(図2)、DNA データベースの塩基配列と比較しました。その結果、既知の遺伝子伝達因子グループには属さず、これまでプラスミドの伝達に必須とされていたリラクサーゼ遺伝子を保有しないという特徴を有する大型プラスミドであることが明らかになりました。また、国内各地の水田から分離した 14 株の分解菌のうち、属種の異なる8株の細菌が pM7012 と類似のプラスミドを保有することから(図3)、このプラスミドが、過去に異なる細菌間に水平伝播したことが強く示唆されました。pM7012 と相同なプラスミドは、アメリカ由来の 2,4-D 分解菌 Burkholderia tropica RASC 株にも保有されており(図3)、pM7012 と同様の 2,4-D 分解プラスミドが、国外にも存在することが示されました。
これらの結果は、2,4-D 分解細菌が既知の遺伝子獲得機構とは異なる方法で遺伝子を獲得している可能性を示し、細菌における遺伝子水平伝播の研究の推進に貢献すると考えられます。また、本研究で見出された分解プラスミドは、有用遺伝子の導入に役立つ新たなベクターの開発や、難分解物質を分解する菌の育種への応用が期待されます。
本研究の一部は農水省委託プロジェクト研究「土壌微生物相の解明による土壌生物性の解析技術の開発」による成果です。
リサーチプロジェクト名: 情報化学物質・生態機能リサーチプロジェクト
研究担当者: 生物生態機能研究領域 酒井順子、下村有美(現:協同乳業)、小川直人(現:静岡大学)、藤井毅
発表論文等:1) Sakai et al., Microbes and Environ., 22 : 145-156 (2007)
2) Sakai et al., Microbiology, 160 : 525-536 (2014)