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平成26年度主要成果

コシヒカリ環1号を判別できる DNA マーカーとその利用方法に関するマニュアル(ver1.0)を公開

[要約]

コシヒカリ環1号と他の品種を判別できる DNA マーカー情報とその利用方法を公開しました。この判別マーカーを用いることで、効率的な個体選抜が可能となり、様々な品種を容易に低カドミウムタイプに変えることが可能になります。

[背景と目的]

カドミウムをほとんど吸収しない稲品種「コシヒカリ環1号」は、コシヒカリの種子にイオンビームを照射して作出した変異体です。この品種はカドミウム吸収遺伝子である OsNRAMP5 に一塩基の欠損があり、根のカドミウム吸収能を失っています。コシヒカリ環1号はカドミウム濃度以外の形質でコシヒカリと識別することが難しく、また品種育成のためにたくさんの個体のカドミウム濃度を分析するのは非効率です。そこで、OsNRAMP5 の塩基配列情報を基に DNA マーカーを開発しました。

[成果の内容]

本マニュアルは、カドミウム吸収が抑制された「コシヒカリ環1号」と他の品種との判別を DNA マーカーにより行う方法を記したものです。「コシヒカリ環1号」が持つカドミウム吸収抑制遺伝子を他の品種に導入し、新たな低カドミウム水稲品種を効率的に作出する目的に活用できます。そのため多数の個体を想定した育苗法、多検体からの DNA 抽出や PCR 法、電気泳動による多型の判別法まで、多数の個体をマーカー選抜し、カドミウム吸収抑制遺伝子の有無を効率的に調査できるように、ハイスループットな方法を載せました。判別マーカーは、「コシヒカリ環1号」と日本型品種を識別できるだけでなく、インディカ品種(ハバタキなど)にも対応しています(図1)。本マニュアルを参考に、利用者の施設や実験計画に合わせた方法に改良し、効率的な低カドミウム水稲品種の育成に役立てて頂くことが可能です(図2)。

なお、本変異体の育種利用に関しては、(独)農業環境技術研究所との共同研究契約が必要です。詳細はマニュアル(URL: http://www.naro.affrc.go.jp/archive/niaes/techdoc/kk1_marker_v1.pdf)に記載してある問い合わせ先にご連絡下さい。

本研究は生物系特定産業技術研究支援センターイノベーション創出基礎的研究推進事業「食の安全を目指した作物のカドミウム低減の分子機構解明」および農林水産業・食品産業科学技術研究推進事業「カドミウム低吸収性イネ品種シリーズの開発」による成果です。

リサーチプロジェクト名: 有害化学物質リスク管理リサーチプロジェクト

研究担当者: 土壌環境研究領域 石川覚、倉俣正人(現:KYB)、安部匡

発表論文等:1) 石川ら、国際特許出願(アメリカ、中国、日本)「カドミウム吸収制御遺伝子、タンパク質及びカドミウム吸収抑制イネ」:公開番号 WO2013/065517(2013)
2) Ishikawa et al., PNAS, 109:19166-19171 (2012)
3) 石川ら、品種登録「コシヒカリ環1号」:登録番号 第24338号(2015)

図1 PCRで増幅後の電気泳動像

図2 DNAマーカーを利用した効率的な低カドミウム品種の育成方法(概略図)

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