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平成26年度主要成果

土壌病害を抑制する微生物の活用マニュアルを公開

[要約]

生産地で深刻な被害をもたらすトマトやナスの土壌病害に対して、発病を抑制する効果が見出された微生物株の培養から植物体への処理までの手順と抑制効果の実例等を取りまとめたマニュアルを公開しました。このマニュアルの活用により、防除効果の実証例数が蓄積し、微生物農薬開発の推進に役立てることができます。

[背景と目的]

微生物農薬の利用は、環境保全型農業の推進に役立ちますが、土壌病害に対して開発されたものは少なく、更なる開発が求められています。そこで、その開発を進めるために、ナス科野菜の重要土壌病害(トマト・ナス青枯病、トマト萎凋病・トマト根腐萎凋病)に対して防除効果が見出された微生物株の効果的な処理方法や圃場試験での有効性の実例等を盛り込んだ「ナス科作物の土壌病害に対する Bacillus 属等微生物の効果的活用マニュアル」を作成し、ウェブで公開しました。本マニュアルの活用により、これら微生物株の防除効果の実証事例が蓄積され、微生物農薬開発の加速化が期待できます。

[成果の内容]

本マニュアル(図1)は、農林水産省のプロジェクト研究において防除効果が見出された微生物株(Bacillus thuringiensis serovar sotto RG1-6 株[トマト青枯病に有効]、B. thuringiensis serovar fukuokaensis B88-82 株[トマト萎凋病およびナス青枯病に有効])、微生物殺虫剤として上市されている Paecilomyces tenuipes T1 株[トマト青枯病およびトマト萎凋病に有効]、さらに Paenibacillus sp. 42NP7 株と菌根菌(Glomus mosseae)の併用処理[トマト根腐萎凋病に有効]毎に処理法および効果の実例等が解説されており、ウェブ(http://www.naro.affrc.go.jp/archive/niaes/techdoc/bacillus_agent/)で閲覧、ダウンロードできます。

解説の内容は、次の6つの項目で構成されており(図1)、1)「微生物株の由来や特性」に次いで、2)「微生物株の培養条件、接種源の調製法」や 3)「植物体への処理法」が実際の根拠となるデータとともに解説されています(図2)。また、4)「圃場での防除効果」として、実際の圃場での防除効果試験の概要が解説されているとともに(図3)、5)「防除効果が期待できる使用場面」、6)「防除効果の作用メカニズム」の解説もあります。

農薬の登録には、その防除効果について複数の成績事例を示すことが要件となっていますが、このマニュアルを活用することで、微生物農薬開発に携わる民間および公設試験機関の研究者らがこれらの微生物株の防除効果の実証試験を円滑に行うことが可能となり、これにより、土壌病害に対する新たな微生物農薬の開発への貢献が期待できます。

本研究は農林水産省委託プロジェクト研究「気候変動に対応した循環型食料生産等の確立のためのプロジェクト」による成果です。

リサーチプロジェクト名: 農業環境情報・資源分類リサーチプロジェクト

研究担当者: 生物生態機能研究領域 吉田重信、農業環境インベントリーセンター 對馬誠也

発表論文等:1) 吉田、對馬、インベントリー、12 : 28-31(2014)

図1 マニュアルの表紙(左)とマニュアルの内容を示す目次の一部(右側)

図2 「植物体への処理法」の解説部分(Paenibacillus es. 42NP7株と菌根菌の併用処理の場合)

図3 「圃場での防除効果」の解説部分(Paenibacillus es. 42NP7株と菌根菌の併用処理の場合)

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