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平成27年度主要成果

多収品種タカナリの高CO2濃度環境における子実の成長特性
〜高CO2濃度で増収に寄与する一要因〜

[要約]

多収品種タカナリでは、通常なら充実しないような弱勢籾の成長が、高CO2濃度で大きく促進され、増収に貢献することがわかりました。将来の高CO2濃度環境下での品種開発に役立つ知見です。

[背景と目的]

これまでの研究より、多収品種タカナリは、将来の高いCO2濃度下でも高い収量性を示すことがわかっていますが、収量と品質を左右する子実の炭素・窒素蓄積過程が高CO2によってどのように影響されるかは明らかではありませんでした。そこで、開放系大気CO2増加(FACE)実験水田でタカナリと対照品種コシヒカリを栽培し、子実中の炭素・窒素含有量の出穂から収穫までの変化を調査しました。

[成果の内容]

2011年に茨城県つくばみらい市で、大気CO2濃度を現在よりも200 ppm高めるFACE実験を実施し(図1)、2品種の子実の成長を比較しました。穂の上部に着き、充実しやすい強勢籾(図2)では、炭素蓄積に及ぼす高CO2の影響は明らかではありませんでした(図3上)。一方、穂の基部に着き、通常は充実しにくい弱勢籾の炭素蓄積は、両品種で高CO2によって増加しましたが、その影響は特にタカナリで明らかで、成熟期には強勢籾と同じ水準に達しました(図3右上)。コシヒカリでは、強勢籾の窒素蓄積は高CO2によって著しく低くなりました(図3左下)が、弱勢籾の窒素蓄積は高CO2の影響を受けず、成熟期には強勢籾と同じ水準に達しました(図3左下)。高CO2による籾の窒素濃度の低下は白未熟粒の発生を助長することから、コシヒカリでは充実の良い籾で白未熟粒率が多発することが懸念されます。これに対し、タカナリの窒素蓄積は、強勢籾では出穂2週後頃から一時的に高CO2によって抑制されたものの、成熟期には回復し、弱勢籾では高CO2区で常に高く推移しました(図3右下)。このように、タカナリでは、高CO2によって、通常では充実しない弱勢籾の成長が大きく促進されること、および成熟期の窒素蓄積が強勢籾においても低下しないことを通じて、高CO2下での多収と品質維持が実現できるものと考えられました。以上の知見は、将来の高CO2環境に適した品種の開発に役立ちます。

本研究は農林水産省プロジェクト「農林水産分野における地球温暖化対策のための緩和および適応技術の開発」および文部科学省科学研究費補助金「植物生態学・分子生理学コンソーシアムによる陸上植物の高CO2応答の包括的解明」による成果です。

リサーチプロジェクト名:作物応答影響予測リサーチプロジェクト

研究担当者:大気環境研究領域 長谷川利拡、張 国友(東京大学、現中国農業科学院)、酒井英光、臼井靖浩(現農研機構)、朱 春梧(現中国科学院)、吉本真由美、福岡峰彦、物質循環研究領域 常田岳志、中村浩史(太陽計器(株)) 、小林和彦(東京大学)

発表論文等:1) Zhang, Journal of Experimental Botany, 64: 3179?3188 (2013)
2) Zhang, Sakai, Usui et al., Field Crops Research, 179: 72?80 (2015)

図 1  屋外圃場で CO2濃度上昇の影響を調査するつくばみらいFACE実験:水田の八角形の区画約240 m2を対象に、周囲に設置した CO2放出チューブから、風向きに応じてCO2を放出して、CO2濃度を外部よりも約200 ppm 高い状態に制御します。

図2 コシヒカリとタカナリの穂と籾の採取位置: タカナリはコシヒカリに比べて一穂の籾が約80%多く、多収でかつ高CO2による増収も大きいことがわかっています。それぞれの品種の出穂日を調査し、出穂から3〜10日間隔で穂を採取し、穂の上位にあり充実しやすい強勢籾と基部の枝分かれした部分にあり充実しにくい弱勢籾への炭素、窒素の蓄積を調査しました。

図3 コシヒカリ、タカナリの強勢籾、弱勢籾別の玄米中炭素および窒素の推移: 玄米中炭素含有量は、強勢籾(丸)では高CO2による違いはありませんでしたが、弱勢籾では、特にタカナリで高CO2によって大きく増加しました。一方、窒素含有量は高CO2によってコシヒカリの強勢籾で大きく低下しました。これに対し、タカナリでは、高CO2の強勢籾の窒素含有量への影響は成熟期には認められず、弱勢籾への蓄積は高CO2によって大きく促進されました。この結果、高CO2下のタカナリでは、弱勢籾が強勢籾と同程度の炭素・窒素を蓄積することがわかりました。

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