農業環境技術研究所 > 刊行物 > 研究成果情報 > 平成27年度 (第32集)

平成27年度主要成果

耕作放棄水田の多い場所では
水田性鳥類が少なく湿原性鳥類が多い傾向に

[要約]

耕作放棄水田の多い場所ではサギ類など水田性鳥類の種数が少ない一方、オオヨシキリなど湿原性鳥類の個体数が多いことが示されました。さらに、これらの種群は畑地性・林縁性・森林性鳥類よりも絶滅危惧種を多く含むことが新たに分かりました。

[背景と目的]

これまでの研究から、水田の耕作放棄は湿原性鳥類に正の影響、他の鳥類に負の影響を及ぼすことが示唆されています(研究成果情報第24集)。しかし、これらは種数や個体数にのみ着目し、保全上重要な指針となる絶滅危惧種の割合を評価していませんでした。そこで、耕作放棄から影響を受ける鳥類種の保全上の重要度を評価しました。

[成果の内容]

鳥類調査は2007年に利根川流域内(28カ所の1km四方の調査地)で行い、各調査地の放棄水田面積割合(休耕田も含む)は空中写真から算出しました。解析のため、観察された鳥類を先行研究に基づき生息環境の異なる5種群(水田性、畑地性、湿原性、林縁性および森林性鳥類:図1)に分類しました。

次に、調査地である関東5県の県別レッドリストを参照しました。その結果、本調査地の水田性鳥類と湿原性鳥類は、夏・冬ともに他の種群よりも絶滅のおそれのある種を多く含んでいることが新たに分かりました(図2)。

最後に、各種群の種数・個体数に対する耕作放棄水田面積(休耕田を含む)の影響を再解析しました。この際、新たに圃場整備率などの説明変数を加えモデルを改良しました。その結果、ヨシなどが優占する耕作放棄水田の多い場所ほど、水田性鳥類の夏の種数が少なく(図3左)、一方で湿原性鳥類の夏・冬の個体数が多い傾向にあることが示されました(図3右)。

これらの結果は、近年の耕作放棄水田の増加が絶滅危惧種の増減に関わっている可能性を示しています。今後、生物多様性に配慮した農業生産を目的とする場合には、水田と耕作放棄水田を適切なバランスで維持管理していくことが有効です。またその際、地域の保全対象種に応じてそのバランスを変えることがより良いと言えるでしょう。

本研究の一部は、JSPS科研費(25830154および24710038)、および Marie Curie International Incoming Fellowship Programme (PIIFGA-2011-303221) による成果です。

リサーチプロジェクト名:生物多様性評価リサーチプロジェクト

研究担当者: 生物多様性研究領域 片山直樹、楠本良延、農業環境インベントリーセンター 大澤剛士、天野達也(ケンブリッジ大学)

発表論文等: 1) Katayama et al., Agric. Ecosyst. Environ, 214 : 21–30 (2015)

図1 本研究における鳥類種群の生息環境による分類

図2 種群ごとの絶滅危惧種指定県数: 夏と冬それぞれの鳥類相について、各種の絶滅危惧種指定県数を関東5県の県別レッドリストから計算し、種群ごとにまとめました。その結果、夏冬ともに水田性種、湿原性種に絶滅危惧種が多いことが分かりました。

図3 耕作放棄水田面積と種数・個体数との関係: 耕作放棄水田が多い場所では、水田性鳥類の夏の種数が少ない傾向を示す一方で、湿原性鳥類の夏・冬の個体数が多い傾向が認められました。

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