農業環境技術研究所 > 刊行物 > 研究成果情報 > 平成27年度 (第32集)

平成27年度主要成果

那珂川水系内への特定外来生物カワヒバリガイの
新たな侵入を確認

[要約]

水利施設への障害や在来生態系への影響が懸念される特定外来生物カワヒバリガイが、那珂川水系に侵入していることを明らかにしました。現時点ではまだ侵入の初期段階と考えられますが、このまま放置すれば水系内への拡散が懸念されます。未生息地への侵入の検出や、侵入した個体群の根絶に向けた対策の実施が望まれます。

[背景と目的]

近年、利根川水系の湖である霞ヶ浦(茨城県)ではカワヒバリガイの生息密度が増加しています(研究成果情報第30集)。霞ヶ浦の水は水路・貯水池等を経て県内を中心に広い範囲で利用されていますが、それらの水利施設を経由して水系内にカワヒバリガイの分布も拡大しています。利根川水系と河川による交流のない那珂川水系では、2014年5月までカワヒバリガイの生息は確認されていませんでしたが、同年11月に、霞ヶ浦から水路を通じて取水している貯水池でカワヒバリガイの生息がはじめて確認されました。那珂川水系への侵入がどの程度進行しているのかを把握するために、カワヒバリガイの発見された貯水池を中心に調査を行いました。

[成果の内容]

那珂川水系内にある貯水池(笠間池)とその流出水路・河川および笠間池から取水している別の貯水地(不動谷津池)においてカワヒバリガイの生息状況調査を行いました。笠間池と不動谷津池は共に霞ヶ浦から管水路を経由して取水しており、そこから流出した水はそれぞれ涸沼川と涸沼前川に流入しています(図1)。

調査の結果、カワヒバリガイは笠間池の岸の約半周にわたって生息していること、個体の殻長から推測して、遅くとも2013年には侵入していたことなどが明らかになりました(図2, 図3)。また笠間池から約1km下流の水路で1個体が確認されましたが(調査員1名の20分間の目視調査)、不動谷津池を含むそれ以外の地点からカワヒバリガイは見つかりませんでした(2015年5月現在)。また、那珂川・涸沼前川・涸沼等で2009年以降実施している調査でも、カワヒバリガイの生息はこれまで確認されていません(図4)。

今回の結果は、水利施設を経由したカワヒバリガイの分布拡大が那珂川水系でも進行しつつあることを示しており、この状況を放置すれば水系内の広い範囲へ拡散することが懸念されます。これ以上の分布拡大や被害の発生を防ぐには、新たな生息地への侵入を検出するとともに、侵入した集団の根絶に向けた対策の実施が望まれます。現在、農業環境技術研究所は水利施設を管理する組織と連携し、カワヒバリガイの侵入モニタリングの実施や防除対策への助言・評価などを行っています。

リサーチプロジェクト名:遺伝子組換え生物・外来生物環境影響評価リサーチプロジェクト

研究担当者:生物多様性研究領域 伊藤健二

発表論文等:1) 伊藤健二, 保全生態学研究 21: 67-76 (2016)

図1 那珂川水系と霞ヶ浦、水路の位置関係:
     A: 霞ヶ浦, B: 笠間池, C: 不動谷津池, D: 涸沼川 E: 涸沼前川, F: 涸沼, G:那珂川

図2 笠間池(図1B)におけるカワヒバリガイの分布と個体密度/図3 殻長頻度分布と分割されたサイズ群: 最大のサイズ群は、遅くとも2013年には笠間池に侵入していたと推測される。

図4 2015年5月までに明らかになった那珂川水系におけるカワヒバリガイの分布域。図中の年号は調査を実施した年を示している。

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