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平成27年度主要成果
日本と周辺諸島、北米、ハワイの外来昆虫相を比較したところ、小笠原諸島やハワイ諸島などの海洋島には外来昆虫が侵入・定着しやすい、北米大陸・ハワイ諸島は生物的防除の目的で導入された外来昆虫が多い、など地域ごとの特徴が明らかになりました。
これまで多くの外来昆虫が生息地以外に侵入・定着し、世界中の農業や生態系に多大な影響を及ぼしてきました。増大する外来昆虫による被害の拡大を未然に防ぐには、警戒すべき種を、膨大な数の世界中の昆虫種から選び出す必要があります。本研究では、我が国において警戒すべき未侵入外来昆虫のリストアップと、侵入可能性の高い昆虫の一般的な特徴を明らかにするため、日本と周辺諸島の外来昆虫相を、日本と貿易上のつながりの深い北米大陸と、中間に位置するハワイ諸島の外来昆虫相と比較しました。
外来昆虫の種数は、北米大陸が最も多く、次いでハワイ諸島、日本列島、南西諸島、小笠原諸島の順でした(図1)。しかし、面積あたりの侵入数にすると、小笠原諸島やハワイ諸島が圧倒的に多く、一度も大陸と陸続きになったことが無い海洋島は外来昆虫の侵入可能性が高いことがわかりました。次に、昆虫種の大きな分類のくくりである目を対象に、分類群の構成を2次元平面上に投影する多変量解析法(=非計量多次元尺度法)を使って、5地域の外来・在来昆虫相の比較を行いました(図2)。第1軸の左側と右側に、各地域の外来昆虫相と在来昆虫相がはっきりと分かれました(図2左)。また、同じ第1軸左側の外来昆虫相に対応する分類群は、ノミ目、ゴキブリ目、アザミウマ目、カメムシ目など衛生害虫やハウスなどの施設で発生する小型害虫で、これらのリスクが高いことが伺えます(図2右)。さらに、各地域外来昆虫の原産地を推定したところ、日本列島では旧北区(アジア)から、小笠原諸島と南西諸島は東南アジアを含む東洋区からの外来昆虫が多く、気候的類似性の強い影響がうかがえます(図3)。一方、北米はヨーロッパからが多く、歴史的つながりも重要な要因であることを示しています。
本研究により、各々の種の侵略性だけでなく、地理的制約や歴史的な経緯も警戒すべき外来昆虫を絞り込む際の重要な要素であることが明らかになりました。この成果は、将来の外来昆虫害に対応するために戦略的に科学的知見を蓄積する上で重要です。現在、日・米以外の研究者らとも協力して、より広域での外来昆虫相比較を準備しています。
リサーチプロジェクト名:遺伝子組換え生物・外来生物環境影響評価リサーチプロジェクト
研究担当者:農業環境インベントリーセンター 山中武彦、森本信生(農業・食品産業技術総合研究機構畜産草地研究所)
発表論文等:1) Yamanaka, et. al., Biological Invasions, 17:3049–3061 (2015)