農業環境技術研究所 > 刊行物 > 研究成果情報 > 平成27年度 (第32集)
平成27年度主要成果
遺伝子組換え(GM)ダイズやGMセイヨウアブラナの生物多様性影響評価に必要な近縁種(ツルマメやナタネ類)の植物学的情報、生育特性、生態特性、繁殖生物学、遺伝子浸透、雑種後代の特性等を集約した生物情報集を公開しました。
世界のGM作物の作付面積は年々増加しています。GM作物の使用に際しては、カルタヘナ法に基づく生物多様性への影響が評価され、影響が生じないと判断された場合に、その使用が承認されます。我が国にはダイズやセイヨウアブラナと交雑可能なツルマメやカラシナ、アブラナ等の近縁種が分布しています。そのため、生物多様性への影響を評価する際には、これらの植物種の生物・生態・遺伝的情報を網羅した資料集が有用です。
乾燥耐性のような環境への適応性を向上させたGMダイズやセイヨウアブラナについて、生物多様性影響を適切に評価するには、国内に分布する交雑可能な近縁種であるツルマメやナタネ類の生物的・生態学的知見を含め、GM作物に導入した遺伝子を交雑によって取り込んだ雑種個体の動態を検討するための遺伝学的知見等が不可欠です。そこで、これまで国内外で公表されたツルマメやナタネ類に関する論文や出版物等を収集し、植物学的情報、生育、生態に関する特性、繁殖生物学、遺伝子浸透、雑種後代の特性等を整理しました。ツルマメは東アジアにのみ自生する植物なので、欧米にはこのような情報を網羅した情報集はありません。ここでは、一般の図鑑に収録されているツルマメの生物的・生態学的な情報だけでなく、ダイズとの雑種形成や遺伝子浸透についての情報も含まれています(表1)。ナタネ類についても、日本に自生する近縁種との交雑など国内の生物多様性への影響を評価するのに有用な情報がまとめられています。本情報集に収録された内容は、GMダイズおよびGMセイヨウナタネの生物多様性影響評価書を作成する申請者や、評価書を審査する検討会、関連行政等において、競合における優位性や交雑性等のGM作物の生物多様性影響をより正確で適切に評価するために役立ちます。
本研究は農林水産省委託プロジェクト「次世代遺伝子組換え生物の生物多様性影響評価手法の確立及び遺伝子組換え作物の区分管理技術等の開発」(平成23~24年)による成果です。
リサーチプロジェクト名:遺伝子組換え生物・外来生物環境影響評価リサーチプロジェクト
研究担当者:生物多様性研究領域 吉村泰幸・松尾和人、加賀秋人・田部井豊(農業生物資源研究所)、大澤良・津田麻衣(筑波大学)、下野綾子(東邦大学)、吉田康子(神戸大学)
発表論文等: 1) 津田ら、農業環境技術研究所報告第36号:1–45 (2016)
2) 吉村ら、農業環境技術研究所報告第36号:47–69 (2016)