農業環境技術研究所 > 刊行物 > 研究成果情報 > 平成27年度 (第32集)

平成27年度主要成果

生分解性プラスチック分解酵素と保湿剤併用による
生分解性マルチフィルムの分解促進

[要約]

畑に張った市販の生分解性プラスチック(生プラ)製農業用マルチフィルム(生プラマルチ)は、強力な生プラ分解酵素を含む糸状菌の培養ろ液を、保湿剤と併用して散布することで、急速に分解されました。使用済み生プラマルチの分解促進技術への利用が期待されます。

[背景と目的]

生プラマルチは、土壌中で完全分解されるため、回収廃棄が不要な省力化資材です。しかし、農業現場では分解が不完全な場合があり、収穫直後にすき込むと機械に絡みつくなど普及の妨げの一因となっています。収穫後の生プラマルチ分解を速めることができれば、すぐにマルチ残さをすき込み、次の作付けができます。農業環境技術研究所では、これまでに市販の生プラマルチを速やかに分解するカビ(糸状菌;菌株名 B47-9株)を自然界から分離し、その培養液に生プラを強力に分解する酵素を見いだしています。ここでは、分解の遅い市販生プラマルチの迅速かつ簡易な分解促進法の開発を目指し、圃場で生プラマルチを分解するための生プラ分解酵素の施用法を検討しました。

[成果の内容]

生プラマルチに、生プラ分解酵素を含む B47-9株の培養ろ液を散布処理することにより、マルチの分解が促進されました(図1)。しかし、目視による分解を確認するまでに7日以上かかりました。また、市販の生プラマルチはポリブチレン・サクシネート・アジペート(PBSA)やポリブチレン・サクシネート(PBS)製の生プラマルチより分解が遅いため、さらに分解を早める方法を検討しました。その結果、酵素液の乾燥を防ぐための保湿剤として食品添加物にも使われるカルボキシメチルセルロース(CMC)や高吸収性樹脂(Sanfresh ST)を併用することによって、マルチの分解が著しく促進されることが明らかになりました。CMCをマルチ表面に塗抹し、その後に培養ろ液を散布すると、処理の翌日には穴が生じるほどマルチが分解されました(図2)。7日後には市販マルチの 6.2%の面積の分解が認められ(表1)、トラクターで容易にすき込めるような状態になりました。実用化のため、より分解を促進させる補助剤や、簡便な処理法の開発を検討しています。

本研究の一部は、農林水産業・食品産業科学技術研究推進事業シーズ創出ステージ「25017A 畑地の省力化に資するバイオプラスチック製農業資材分解酵素の製造技術と利用技術の開発」による成果です。

リサーチプロジェクト名:情報化学物質・生態機能リサーチプロジェクト

研究担当者:生物生態機能研究領域 小板橋基夫、渡部貴志、山下結香、北本宏子、
生物多様性研究領域 鈴木健

発表論文等:1) Koitabashi M. et al., AMB Express, 2:40 (2012)
2) Suzuki K. et al., Appl. Microbiol. Biotechnol., 98:4457–4465 (2014)
3) Koitabashi M. et al., Japan Agricultural Research Quarterly 50(3):ページ未定(2016)
4)「生分解性プラスチック資材の分解を促進する方法」特願2011-161763

図1 施設圃場内に設置した生プラマルチの分解(培養ろ液のみ処理7日後): 酵素のみを散布した各種生プラマルチの分解の様子。

図2 施設圃場内に設置した市販生プラマルチの迅速分解(培養ろ液+CMC処理): 難分解の市販生プラマルチに酵素とCMC処理を組み合わせた効果でより分解が進んでいます。

表1 施設圃場内に設置した市販生プラマルチの迅速分解(培養ろ液+CMC処理): 生プラ分解酵素を含む培養ろ液とCMCの併用により市販生プラマルチには、処理の翌日には目視でも確認できる分解による亀裂が生じたことから、分解が促進されることが確認できました(図2)。代表的な生プラであるPBSA製のマルチに比べて分解に時間がかかる市販生プラマルチにおいても、CMCと組み合わせた培養ろ液の処理で、7日後に面積で6.2%の分解が認められ、トラクターで容易にすき込めるような状態になりました(表1)。

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