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平成27年度主要成果
沖縄県に侵入し、様々な果樹を加害しつつあるバナナコナカイガラムシを強力に誘引するフェロモン成分の構造を解明し、その発生を簡単に検出できるフェロモントラップを開発しました。分布拡大の防止に向け、検疫および監視に役立てることができます。
バナナコナカイガラムシ Dysmicoccus neobrevipes Beardsley は、パイナップル等の果実を含む様々な農作物に被害を与える害虫で、2012年にはじめて日本(石垣島)への侵入が報告されました。今後の分布拡大・被害蔓延を防ぐためには、この虫の発生を的確・迅速に検出する検疫および監視体制を築く必要があります。そこで、対象害虫を選択的かつ効率的に捕獲することができるフェロモントラップの開発を目的として、本種の性フェロモン成分の単離・化学構造決定・有機合成を行い、誘引活性を評価しました。
バナナコナカイガラムシ(図1)のメス成虫を大量に飼育し、約21万頭分に相当する量のあらゆる匂い成分をポンプで吸引し、吸着剤に捕集しました。この中から、オス成虫に対し誘引活性を示す物質を、液体クロマトグラフィーおよびガスクロマトグラフィーによって単離しました。この物質を質量分析計や核磁気共鳴装置で分析し、その構造を(+)-酢酸(E)-2-イソプロピル-5-メチルヘキサ-3,5-ジエニルと決定しました。この物質はラベンダー精油に含まれる酢酸ラバンデュリルによく似たモノテルペン系エステルで、これまでに知られていない新規化合物でした(図2)。
この物質には (S)体と(R)体のふたつの鏡像異性体が存在しますが、ブタ膵臓リパーゼによる不斉アシル化(鏡像異性体選択的なエステル化)反応を利用して、単純なジオールから3~4工程で両者を合成することに成功しました(図3)。それぞれの比旋光度を測定した結果、天然フェロモンが(S)-(+)体であることがわかりました。続いて、本種が発生しているパイナップル圃場において、合成フェロモンを誘引源としたトラップで多数のオス成虫を捕獲できることを確認しました(図4)。(S)体の方が高い誘引性を発揮しますが、(R)体にも活性が認められるので、両者のラセミ混合物でも誘引源として利用できます。
このフェロモントラップはバナナコナカイガラムシのオス成虫だけを選択的・効率的に捕獲するので、誰でも簡単にその発生を検出できます。そのため、検疫や被害予測に役立てることができると考えられます。なお、野外誘引実験・実験室内誘引実験は沖縄県農業研究センターおよび国際農林水産業研究センターとそれぞれ共同で行いました。
リサーチプロジェクト名:情報化学物質・生態機能リサーチプロジェクト
研究担当者:生物多様性研究領域 田端 純、大野 豪(沖縄県農業研究センター石垣支所)、一木良子((国研)国際農林水産業研究センター/日本学術振興会特別研究員)
発表論文等:1) Tabata & Ichiki, Journal of Chemical Ecology, 41: 194–201 (2015)
2) Tabata & Ohno, Applied Entomology and Zoology, 50: 341–346 (2015)