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平成27年度主要成果

「【技術マニュアル】農薬の生態リスク評価のための種の感受性分布解析」の公開

[要約]

化学物質の生態リスク評価のための新たな解析手法である「種の感受性分布(SSD)」について、わが国における農薬の水圏生態リスク評価に適用するための基本的解説、実際の解析方法、活用方法等をとりまとめた技術マニュアルを公開しました。

[背景と目的]

化学合成農薬(以下農薬とする)の水圏生態系への影響については、農地から流出した農薬の環境中濃度と指標生物種に対する毒性値を比較するのが現在の標準的な評価手法です。ところが、農薬の毒性は生物種によって極端に異なるため、種間の感受性差を考慮したリスク評価を行うことが望まれます。そこで、欧米諸国などで公的なリスク評価や水質基準の設定根拠等に活用されている種の感受性分布(SSD)について、わが国における農薬の水圏生態リスク評価に適用するための技術的な検討を行いました。

[成果の内容]

化学物質に対する種々の生物種の感受性は、一般的に対数正規分布に適合することが知られています。これを累積分布として示すと、図1のように化学物質の濃度と影響を受ける種の割合の関係として表現することができ、これを種の感受性分布(Species Sensitivity Distribution, SSD)と呼びます。このSSDは、環境中の化学物質の濃度から「影響を受ける種の割合」を計算してこれをリスク指標としたり、95%の種を保護する濃度(5% Hazard Concentration, HC5)を逆推定してこれをリスク管理の目標値としたりするなどの活用法があります。

本技術マニュアル(図2)は、わが国で使用される農薬を対象とした水圏生態リスク評価にSSDを適用するための技術的な検討を行った結果をまとめたものです。1章ではSSDの基本的解説や海外での活用事例を整理し、2章ではSSD解析のための毒性データの収集と評価方法について記載し、3章では農薬を対象としたSSDの解析とそれを用いたリスク評価手法について解説し、4章では専門家向けのさらに高度な解説を行いました。農業環境技術研究所のウェブサイト(http://www.naro.affrc.go.jp/archive/niaes/techdoc/ssd/index.html)から、本マニュアルの電子ファイル(PDF)と、解析のためのExcelファイル(図3図4)を入手できます。また、希望者には印刷物を配布します。

本技術マニュアルにより、SSDに対する理解や活用機会が広がり、農薬の生態リスクの定量化や感受性差を考慮した管理目標値の設定など、評価と管理の高度化が期待されます。

本研究は、環境省環境研究総合推進費「適切なリスク管理対策の選択を可能にする農薬の定量的リスク評価法の開発(C-1102)」(平成 23~25年度)と、環境省委託事業「農薬水域生態リスクの新たな評価手法確立事業」(平成 23~27年度)の成果の一部をまとめたものです。

リサーチプロジェクト名:化学物質環境動態・影響評価リサーチプロジェクト

研究担当者:有機化学物質研究領域 永井孝志

発表論文等:1) Nagai, Journal of Pesticide Science, 印刷中 (DOI: 10.1584/jpestics.D15-056)

図1 種の感受性分布(SSD)の概念図: 6生物種の毒性値のバラツキを対数正規分布(図中の曲線)に適合させています。

図2 技術マニュアル表紙: 研究所WEBサイトから、技術マニュアルと計算用ファイルがダウンロードできます。

図3  Microsoft Excelを用いたSSDの計算: 付録のExcelファイルを使用すると、手持ちの毒性データからSSD解析を行うことができます。SSDのパラメータ(対数平均、対数標準偏差)を決定し、HC5とその信頼区間などが算出されます。

図4  Microsoft Excelを用いた「影響を受ける種の割合」の計算: プルダウンメニューから農薬を選択後、その農薬の環境中濃度を入力すると「影響を受ける種の割合(リスク指標)」が計算され、そのリスクの判定(4段階)が示されます。

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