農業環境技術研究所 > 刊行物 > 研究成果情報 > 平成27年度 (第32集)
平成27年度主要成果
包括的土壌分類第1次試案に基づいて、全国の土壌炭素蓄積量の推定などの環境問題をはじめとする様々な場面に利用可能な、全国をカバーする20万分の1の土壌図を作成しました。
わが国の土壌調査は、国の各種事業によって行われ、土壌分類・土壌図も農耕地(水田、畑)や林野など、事業別に作成されてきました。そのため、異なる地目・土地利用を含む地域を同一基準で分類した土壌図はほとんどなく、全国の土壌炭素蓄積の推定や流域レベルの物質移動などの環境問題に土壌図を利用して取り組む際に大きな制約となっています。また、「耕作放棄」のように農耕地と林野の間で土地利用が変化する場面では、土地利用が変わるだけで土壌名が変わってしまう問題もありました。この状況を改善するため、農業環境技術研究所では、2011年に農耕地のみならず日本の国土全域を対象とすることができる「包括的土壌分類、第1次試案」(研究成果情報第27集、以降「包括1次試案」)を公表しました。今回はその分類に基づいて、農耕地、非農耕地の区別無く様々な場面に利用可能な全国をカバーする20万分の1の土壌図を作成しました。
包括1次試案土壌図(以降、包括土壌図)作成には、国土交通省がデジタル化して公開している土地分類基本調査の 20万分の1都道府県別土壌図をベースに、利用可能な各種地図データ(国土調査の表層地質図、火山灰層厚図、近隣の農耕地土壌図データ等)、および既存の土壌断面情報データ(約800地点)と現地での簡易調査結果(約700地点)を用いました。国土調査土壌図で用いられている土壌分類名を包括1次試案に読替え、都道府県別の包括土壌図を作成し、それらを連結し全国包括土壌図を作成しました(図1)。
国土全体を同一基準で図示する包括土壌図を作成したことにより、同じ土壌が黒ボク土(農耕地)、褐色森林土(林地)などの土地利用によって異なって図示されることはなくなりました。また、国土調査土壌図では最も広く分布する土壌は褐色森林土(分布面積割合53%)でしたが、作成した包括土壌図では、分類体系の違いを反映し、黒ボク土(同31%)、褐色森林土(同30%)、低地土(同14%)という順に変わりました(図2)。
20万分の1の包括土壌図は都道府県・地方・全国レベルでの利用に適しており、全国が統一基準で図示されているため、日本国内すべての場所で農耕地、非農耕地の区別無く土壌情報が使えます。また、包括1次試案は国際的な分類との読み替えも比較的容易であることから、日本国として参画している Global Soil Partnership 等国際的な土壌に関する活動(例:世界土壌情報の構築)にも、この土壌図を利用することができます。
リサーチプロジェクト名:農業環境情報・資源分類リサーチプロジェクト
研究担当者:農業環境インベントリーセンター 小原 洋、髙田裕介、神山和則、大倉利明、神田隆志、若林正吉(現:農研機構)、土壌環境研究領域 前島勇治
発表論文等:1) 小原ら、農業環境技術研究所報告第37号:133–148(2016)