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研究資料
NIAES
2014年3月31日
独立行政法人 農業環境技術研究所
(作物応答影響予測リサーチプロジェクト)

2013年夏季の農業気象(高温に関する指標)

はじめに

近年、夏季の高温による農作物の被害が多発しています。ここでは、水稲の生育に影響を与える 2013 年夏季の農業気象の概況を整理しました。具体的には、農環研 1 km メッシュ気象データ 3) を用いて、猛暑日と熱帯夜、ならびに水稲の登熟期間の平均気温の地域的な特徴を示し、気象データに基づく穂温の推定結果についても紹介します。

概要

1.1 km メッシュ気象データを使用した解析によると、2013 年の猛暑日 (日最高気温 35 ℃以上) ならびに熱帯夜 (日最低気温 25 ℃以上) の記録回数は、どちらも過去 35 年間で、東日本が 4 番目、西日本が 2 番目の多さでした。

2.出穂日から 20 日間 (登熟初期) の平均気温が 26 ℃を超える地域が、関東東部、北陸平野部、東海ならびに近畿の平野部、山陰、北九州、四国の一部に広く分布していました。登熟初期の平均気温が 26 ℃を超えると、品質の低下リスクが増加します。

3.8 月前半の穂温が猛暑年であった 2010 年よりも高かった可能性が、穂温モデルを用いた解析によって示されました。

内容

1.猛暑日と熱帯夜

2013 年の猛暑日 (日最高気温 35 ℃以上) の記録回数は過去 35 年間で、東日本では 1994 年、1995 年、2010 年に次いで 4 番目、西日本では 1994 年に次いで 2 番目の多さでした。また熱帯夜 (日最低気温 25 ℃以上) の記録回数は、東日本が 2010 年、1994 年、2011 年に次いで 4 番目、西日本が 2010 年に次いで 2 番目の多さでした。猛暑日と熱帯夜は、いずれも 35 年間で増加傾向にありますが、猛暑日に関しては 1994 年が飛びぬけて多くなっており、特に西日本でその傾向が顕著です (図1)。

次に猛暑日と熱帯夜の発生程度を表す日中と夜間の高温指標 1) を定義し、それらの分布の特徴を調べました。その結果、2013 年は、埼玉県北部から群馬県南部にかけての関東内陸と、東海、近畿地方の平野部に、猛暑日の発生程度が高い地域が広がっていました。九州を中心とした西日本の平野部にも、猛暑日の発生程度がやや高い地域が点在しています。また熱帯夜の発生頻度が高い地域は、関東地方の沿岸部、東海、近畿、九州の平野部などに分布していました (図2)。

2.登熟期間の平均気温

出穂日から 20 日間 (登熟初期) の平均気温が 26 ℃を超えると、水稲の白未熟粒の発生が増大し、品質の低下リスクが生じるとされています 2)。2013 年については、そのような地域が、関東東部、北陸平野部、東海ならび近畿の平野部、山陰、北九州、四国の一部に広く分布していました (図3)。

3.出穂時刻 (10〜12 時) における推定穂温

2013 年の推定穂温は全般に平年よりも高い傾向にあり、特に 8 月前半の推定穂温は、猛暑年であった 2010年 よりも高いものと推定されました (図4)。

秋田、館野 (茨城県つくば市)、高知における出穂時刻 (10〜12 時) の穂温推定値の長期変化 (1981〜2013 年) を調べたところ、8 月前半は 2000 年頃から穂温の上昇傾向が認められ、特に北日本 (秋田)・ 東日本 (館野) で上昇率が大きいことがわかりました。また 8 月後半は、近年の猛暑年(2010 年など)における穂温の上昇が顕著でした (図5)。

引用文献

1) Ishigooka Y., Kuwagata T., Mishimori M., Hasegawa T., Ohno H. (2011) Spatial characterization of recent hot summers in Japan with agro-climatic indices related to rice production, J. Agric. Meteorol., 67(4): 209-224.

2) 森田 敏 (2008) イネの高温登熟障害の克服に向けて.日本作物学会紀事, 77(1): 11-12.

3) 清野 豁 (1993) アメダスデータのメッシュ化について.農業気象,48(4): 379-383.

4) Yoshimoto, M., Fukuoka M., Hasegawa T., Utsumi M., Ishigooka Y., and Kuwagata T. (2011) Integrated micrometeorology model for panicle and canopy temperature (IM2PACT) for rice heat stress studies under climate change, J. Agric. Meteorol., 67: 233-247.

担当研究者

(独)農業環境技術研究所 大気環境研究領域(作物応答影響予測リサーチプロジェクト)

上席研究員  桑形 恒男
主任研究員  石郷岡康史
主任研究員  吉本真由美
上席研究員  長谷川利拡

問い合わせ先

代表研究者:

(独)農業環境技術研究所 大気環境研究領域

上席研究員  桑形 恒男
TEL 029-838-8202

広報担当者:

(独)農業環境技術研究所 広報情報室

広報グループリーダー 小野寺達也
TEL 029-838-8191
FAX 029-838-8299
電子メール kouhou@niaes.affrc.go.jp

日最高気温が35度以上になった回数(左図)と日最低気温が25℃以上になった回数を東日本と西日本に分けて表示;1978年から2013年まで増加傾向、どのグラフでも1994年の出現数が特に多い(グラフ)

図1.日最高気温が 35 ℃以上になった回数(左図)と日最低気温が 25 ℃以上になった回数(右図)の年々変化 (1978-2013 年の過去 35 年間)

1981-2000 年の 20 年平均値を 100 とした時の相対値。農環研 1 km メッシュ気象データ 3) を集計して算定。ここで、東日本は中部地方より東の地域に対応し、西日本は近畿地方より西の地域が対応する (ただし沖縄地方は含まず)。

(全国マップ)
(全国マップ)

図2.日中の高温指標 HD_x35(℃×day)(上図)と夜間の高温指標 HD_n25(℃×day)(下図)の分布(2013年) 農環研 1 km メッシュ気象データ 3) を使用。

2つの高温指標は次式で定義され 1)、それぞれ猛暑日と熱帯夜の発生程度を表している。

HD_x35(℃×day)= 納max(Tmax−35, 0)]

:日最高気温 Tmax が 35 ℃以上の日(猛暑日)の気温超過量を毎日積算する。

HD_n25(℃×day)= 納max(Tmin−25, 0)]

:日最低気温 Tmin が 25 ℃以上の日(熱帯夜)の気温超過量を毎日積算する。

関東内陸と、東海、近畿地方の平野部に、日中の高温指標 HD_x35(猛暑日の発生程度)が高い地域が広がり、九州を中心とした西日本の平野部にも、HD_x35 がやや高い地域が点在している。夜間の高温指標 HD_n25(熱帯夜に発生程度)が高い地域は、関東地方の沿岸部、東海、近畿、九州の平野部などに分布している。

過去 20 年間における日中と夜間の高温指標の分布 (1994〜2013年) を、参考資料として 図A1 および 図A2 に示した。

(全国マップ)

図3.水稲の出穂日から 20 日間の平均気温分布(2013年)

農環研 1 km メッシュ気象データ 3) を使用し、出穂日は作柄表示地帯別に、農林水産省統計資料から算定。

過去 20 年間における水稲の出穂日から 20 日間の平均気温分布(1994〜2013 年)を、参考資料として 図A3 に示した。

48の気象台(旭川、札幌、・・・、鹿児島、宮崎)の気象データをもとにした、8月前半と8月後半それぞれの10〜12時の平均穂温; 2013年と2010年のどちらも多くの地点で平年を上回った。8月前半は特に2013年の方が高く、8月後半は2010年の方が高い傾向があった(グラフ)

図4.8月前後半における全国各地の出穂時刻(10〜12時)の平均穂温分布

2013年と2010年の結果、ならびに1981-2010年の30年間の平均値。各気象台地点の気象データと穂温モデル 4) より算定。

48の気象台(旭川、札幌、・・・、鹿児島、宮崎)の気象データをもとにした、8月前半と8月後半それぞれの10〜12時の平均穂温; 2013年と2010年のどちらも多くの地点で平年を上回った。8月前半は特に2013年の方が高く、8月後半は2010年の方が高い傾向があった(グラフ)

図5.秋田、館野、高知での8月前後半における出穂時刻(10〜12時)の平均穂温の長期変化(1981〜2013年)

各気象台地点の気象データと穂温モデル 4) より算定。

(全国メッシュマップ20枚)

図A1.過去20年間における日中の高温指標HD_x35 (℃×day)の分布(1994〜2013年)

図A1 高解像度ファイル(3200px×2261px、2.2MB)

(全国メッシュマップ20枚)

図A2.過去20年間における夜間の高温指標HD_n25 (℃×day)の分布(1994〜2013年)

図A2 高解像度ファイル(3200px×2261px、2.2MB)

(全国メッシュマップ20枚)

図A3.過去20年間における水稲の出穂日から20日間の平均気温分布(1994〜2013年)

出穂日は作柄表示地帯別に、農林水産省統計資料から算定した。

図A3 高解像度ファイル(3200px×2261px、2.7MB)

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