近年、夏季の高温による農作物の被害が多発しています。ここでは、水稲の生育に影響を与える 2014 年夏季の農業気象の概況を整理しました。具体的には、農環研 1 km メッシュ気象データ 5) を用いて、猛暑日と熱帯夜、ならびに水稲の登熟期間の平均気温の地域的な特徴を示し、気象データに基づく穂温の推定結果についても紹介します。
1.1 km メッシュ気象データを使用した解析によると、2014 年の猛暑日 (日最高気温 35 ℃以上) の記録回数は、1994 年以降の 21 年間で東日本が 13 番目、西日本が 15 番目の順位でした。また熱帯夜(日最低気温 25 ℃以上)の記録回数は、東日本が 14 番目、西日本が 17 番目の順位で、近年では比較的に高温出現が少ない年でした。
2.出穂日から 20 日間 (登熟初期) の平均気温が 26 ℃を超える地域は、関東東部、北陸平野部、東海ならびに近畿の平野部の一部にとどまりました。登熟初期の平均気温が 26 ℃を超えると、品質の低下リスクが増加しますが、中国、四国、九州では 8 月以降の多雨・寡少の不順な天候の影響で、登熟初期の気温上昇が抑制されました。
3. 8 月の平均穂温は東海以西で平年よりも低かったものの、7 月下旬〜 8 月上旬 (東日本の出穂最盛期) に関東地方で穂温がかなり高くなった可能性が、穂温モデルによる解析で示されました。
2014 年の猛暑日 (日最高気温 35 ℃以上) の記録回数は、1994 年以降の 21 年間で、東日本が 13 番目、西日本が 15 番目の順位でした。熱帯夜 (日最低気温25℃以上) の記録回数は、東日本が 14 番目、西日本が 17 番目の順位でした。長期的な傾向としては、猛暑日と熱帯夜の記録日数は 36 年間で増加傾向にあり、猛暑日は 1994年 (特に西日本)、熱帯夜は 2010 年 (特に東日本) がそれぞれ最多となっています。2014 年は、夏季の高温化が顕著になった 1994 年以降の中では、高温出現が少ない方でした (図1)。
次に猛暑日と熱帯夜の発生程度を表す日中と夜間の高温指標 1) を定義し、それらの分布の特徴を調べました (図2)。その結果、2014 年は、関東内陸の一部 (埼玉県と群馬県、栃木県の県境) に、猛暑日の発生程度がやや高い地域が認められたものの、それ以外には猛暑日の発生頻度が高い地域はありませんでした。熱帯夜については、関東地方の沿岸部、東海、近畿の平野部などに発生頻度がやや高い地域が分布していました (図2)。
出穂日から 20 日間 (登熟初期) の平均気温が 26 ℃を超えると、水稲の白未熟粒の発生が増大し、品質の低下リスクが生じるとされています 4)。2014 年については、そのような地域は、関東東部、北陸平野部、東海ならびに近畿の平野部の一部にとどまりました (図3)。中国、四国、九州では8月以降の多雨・寡少の不順な天候の影響で、登熟初期の気温上昇が抑制されました 2) 3)。
2014 年 8 月平均の出穂時刻 (10〜12時) の推定穂温は東海以西で平年よりも低い傾向でしたが、7/23 〜 8/7 の期間の平均穂温は、水稲が出穂の最盛期を迎えていた東日本で平年より高く、特に関東地方においては記録的に高かったものと推定されました (図4)。この期間、東北・関東地方などで高温・多照の気象条件となり 2)、穂温を上昇させる要因となりました。。
1) Ishigooka Y., Kuwagata T., Mishimori M., Hasegawa T., Ohno H. (2011) Spatial characterization of recent hot summers in Japan with agro-climatic indices related to rice production, J. Agric. Meteorol., 67(4): 209-224.
2) 気象庁(2014)夏(6〜8月)の天候.http://www.jma.go.jp/jma/press/1409/01c/tenko140608.html
3) 気象庁(2014)9月の天候.http://www.jma.go.jp/jma/press/1410/01a/tenko1409.html
4) 森田 敏 (2008) イネの高温登熟障害の克服に向けて.日本作物学会紀事, 77(1): 11-12.
5) 清野 豁 (1993) アメダスデータのメッシュ化について.農業気象,48(4): 379-383.
6) Yoshimoto, M., Fukuoka M., Hasegawa T., Utsumi M., Ishigooka Y., and Kuwagata T. (2011) Integrated micrometeorology model for panicle and canopy temperature (IM2PACT) for rice heat stress studies under climate change, J. Agric. Meteorol., 67: 233-247.
(独)農業環境技術研究所 大気環境研究領域(作物応答影響予測リサーチプロジェクト)
上席研究員 桑形 恒男
主任研究員 石郷岡康史
主任研究員 吉本真由美
上席研究員 長谷川利拡
代表研究者:
(独)農業環境技術研究所 大気環境研究領域
上席研究員 桑形 恒男
TEL 029-838-8202
広報担当者:
(独)農業環境技術研究所 広報情報室
広報グループリーダー 小野寺達也
TEL 029-838-8191
FAX 029-838-8299
電子メール kouhou@niaes.affrc.go.jp
1981-2000 年の 20 年平均値を 100 とした時の相対値。農環研 1 km メッシュ気象データ 5) を集計して算定。ここで、東日本は中部地方より東の地域に対応し、西日本は近畿地方より西の地域が対応する (ただし沖縄地方は含まず)。
図2.日中の高温指標 HD_x35(℃×day)(上図)と夜間の高温指標 HD_n25(℃×day)(下図)の分布(2014年) 農環研 1 km メッシュ気象データ 5) を使用。
2つの高温指標は次式で定義され 1)、それぞれ猛暑日と熱帯夜の発生程度を表している。
HD_x35(℃×day)= 納max(Tmax−35, 0)]
:日最高気温 Tmax が 35 ℃以上の日(猛暑日)の気温超過量を毎日積算する。
HD_n25(℃×day)= 納max(Tmin−25, 0)]
:日最低気温 Tmin が 25 ℃以上の日(熱帯夜)の気温超過量を毎日積算する。
関東内陸の一部(埼玉県と群馬県、栃木県の県境)に、日中の高温指標HD_x35(猛暑日の発生程度)がやや高い地域が広がっている。夜間の高温指標HD_n25(熱帯夜の発生程度)が高い地域は、関東地方の沿岸部、東海、近畿の平野部に分布している。
過去 25 年間における日中と夜間の高温指標の分布 (1990〜2014年) を、参考資料として 図A1 および 図A2 に示した。
図3.水稲の出穂日から 20 日間の平均気温分布(2014年)
農環研 1 km メッシュ気象データ 5) を使用し、出穂日は作柄表示地帯別に、農林水産省統計資料から算定。
過去 25 年間における水稲の出穂日から 20 日間の平均気温分布(1990〜2014 年)を、参考資料として 図A3 に示した。
図4.8月ならびに7/23〜8/7における全国各地の出穂時刻(10〜12時)の平均穂温分布
2014年と2013年の結果、ならびに1981-2010年の30年間の平均値。各気象台地点の気象データと穂温モデル 6) より算定。東日本の大部分の地域における2014年の出穂の最盛期は、7/23〜8/7の期間に入っていた。
図A1.過去25年間における日中の高温指標HD_x35 (℃×day)の分布(1990〜2014年)
[ 図A1 高解像度ファイル(3200px×2261px、2.2MB) ]
図A2.過去25年間における夜間の高温指標HD_n25 (℃×day)の分布(1990〜2014年)
[ 図A2 高解像度ファイル(3200px×2261px、2.2MB) ]
図A3.過去25年間における水稲の出穂日から20日間の平均気温分布(1990〜2014年)
出穂日は作柄表示地帯別に、農林水産省統計資料から算定した。
[ 図A3 高解像度ファイル(3200px×2261px、2.7MB) ]