プレスリリース
平成18年4月21日
独立行政法人 農業環境技術研究所

農耕地から発生する温室効果ガスである亜酸化窒素の発生量を正しく推定
−施肥法改善による抑制の可能性も明らかに−

[要約]

このたび農業環境技術研究所(理事長 佐藤洋平)は、水田から発生する窒素肥料由来の温室効果ガスである亜酸化窒素に対して「気候変動に関する政府間パネル(IPCC)」が国別温室効果ガス発生目録ガイドライン(IPCCガイドライン)で現在示されている投入肥料当たりの発生量(温室効果ガス発生量の計算のための基準値)が過大評価であることを明らかにしました。

さらに、わが国の畑土壌では、窒素肥料として被覆硝酸肥料を使用すると、亜酸化窒素の発生を最も抑制できることを明らかにしました。

本成果は、これまで過大評価されていた水田からの亜酸化窒素発生量を見直し、京都議定書に基づくより適正な地球温暖化防止施策決定に貢献することが期待されるとともに、農業活動における温室効果ガスの発生抑制による地球温暖化防止にも貢献するものです。

[背景・ねらい]

温室効果ガスである亜酸化窒素(NO)は、地球上における全発生量の24%が農耕地土壌から発生したものと推定されており、その発生量の正確な評価が地球温暖化防止の施策決定上重要であるため、今年(2006年)には、国別温室効果ガス排出量の算定基準となっている、「気候変動に関する政府間パネル(IPCC)」の国別温室効果ガス発生目録ガイドライン(IPCCガイドライン)が見直され、改訂が行われます。もちろん、これらの温室効果ガスの発生抑制技術の開発も重要です。 そこで、NO発生に関する世界の最新のデータを解析し、施肥量に対する発生量の割合の見直しを行いました。さらに、NO削減に最も効果的な施肥技術も明らかにしました。

[成果の内容・特徴]

1.世界の水田におけるNO発生の実測データ149件を収集し、解析した結果、窒素肥料に由来するNOの平均発生率は施肥窒素量の0.31%であり、IPCCガイドラインが現在提示している値(1.25%)よりも著しく低いことが明らかになりました()。

2.NO発生を連続して測定できる長期自動連続測定装置(写真)を開発し、これまでは捉えられなかった発生ピークを確実に捉え、正確に発生量を評価することができるようになりました。

3.わが国の畑土壌の約50%を占める黒ボク土において、各種化学肥料および有機肥料の施肥窒素量に対するNO発生割合を算出したところ(図1)、これまで重視されていなかった施用有機物がNOの主要な排出源であることが明らかになりました。

4.また、黒ボク土畑では被覆硝酸肥料がNOの発生の抑制に最も効果的であることを明らかにしました(図2)。

5.これらの成果は、IPCCガイドラインおよびわが国の温室効果ガス排出量の改訂の際に利用される予定です。これによって、京都議定書に基づく国別温室効果ガス排出量の算定に寄与するばかりではなく、環境保全型農業を推進するための施策決定にも貢献することが期待されます。

6.本成果の一部は環境省地球環境総合推進費の研究資金により得られたものです。また、本成果により、研究担当者の秋山(村上)博子が、平成18年度文部科学大臣表彰若手科学者賞を受賞しました(4月11日文部科学省よりプレスリリース済み)。

[用語解説]

亜酸化窒素(NO): 京都議定書の規制対象のガスのひとつであり、二酸化炭素の約300倍という強力な温室効果を持つ。

気候変動に関する政府間パネル(IPCC;Intergovernmental Panel on Climate Change): 人為的な気候変動のリスクに関する最新の科学的・技術的・社会経済的な知見をとりまとめて評価し、各国政府にアドバイスとカウンセルを提供することを目的とした政府間機構。

IPCC国別温室効果ガスインベントリーガイドライン(IPCCガイドライン): 気候変動枠組み条約締約国が、温室効果ガスの国別報告書の作成にあたり、排出/吸収量を計算するための手法を示すためのガイドライン。

IPCC基準値(IPCCデフォルト値): IPCCガイドラインにおいて提示されている、温室効果ガス発生量の計算に用いる基本の値。この値は、データが十分にない場合にも適用できることから、世界各国の温室効果ガス排出量の算定に用いられている。

黒ボク土: 日本の畑土壌の約50%を占める、代表的な畑土壌。火山灰からできた土壌で、有機物を多く含んでいるために、黒い色を示す。

被覆硝酸肥料: 硝酸カルシウム肥料をポリオレフィン膜でコーティングすることにより、肥料成分がゆっくりと放出される肥料。

研究推進責任者:(独)農業環境技術研究所 研究コーディネータ

学術博士 今川俊明

TEL 029-838-8200

研究担当者:(独)農業環境技術研究所 企画戦略室 主任研究員

農学博士 秋山(村上)博子

TEL 029-838-8183

共同研究者:(独)農業環境技術研究所 温室効果ガスリサーチプロジェクトリーダー

農学博士 八木一行

TEL 029-838-8234

広報担当者:(独)農業環境技術研究所 広報情報室 広報グループリーダー

福田直美

TEL 029-838-8191 FAX 029-838-8191

[参考資料]

水管理;平均発生率%;データ数/常時湛水;0.22;16/中干しあり;0.37;23/すべての水管理;0.31;39表 世界の水田における窒素肥料に由来するNOの発生率
測定装置のチャンバー部の上部のふたが開いているときの写真写真 農耕地からの温室効果ガス発生量の自動連続測定装置
発生量(mgN/m2)の棒グラフ;発酵鶏糞150以上、発酵豚糞50、ナタネ油かす40、牛糞堆肥0、魚かす40、乾燥牛糞10以下、尿素20図1 各種有機物や化学肥料(尿素)を施用した黒ボク土畑からのNOの発生量
施肥時(9月10日?)から10月末までの発生量の折線グラフ。総発生量は被覆硝酸区<硝酸区<被覆尿素区の順に多い図2 硝酸肥料、被覆硝酸肥料および被覆尿素肥料を施用した黒ボク土畑からのNO排出量
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