独立行政法人農業環境技術研究所(農環研)は、キュウリの台木として用いているカボチャに関し、品種により、土壌に残留した殺虫剤ディルドリン(日本では1975年に農薬登録が失効)の吸収性に差があることを明らかにしました。
殺虫剤ディルドリンは、2001年に採択された「残留性有機汚染物質に関するストックホルム条約(POPs条約)」の規制対象物質ですが、土壌中で分解しにくく、消失の速度が極めて遅いため、国内で使われなくなってから30年以上経過した現在でも農地に残留し、いくつかの地域では、生産されたキュウリ果実から、残留基準値(0.02ppm)を上回るディルドリンが検出され、産地では出荷の自粛や、作物および土壌残留検査を行うなどの緊急対応を余儀なくされています。
そのため、農環研では、土壌からのディルドリン吸収について台木用のカボチャ品種間の比較を行い、低吸収性品種の利用によるキュウリの汚染低減効果を検討してきました。本成果は、今後、ディルドリン汚染の実態に応じた台木用カボチャ品種の選定の目安として活用されることが期待されます。
なお、本研究は、農林水産省農林水産技術会議事務局の委託プロジェクト研究「農林水産生態系における有害化学物質の総合管理技術の開発」により実施したものです。
研究推進責任者:(独)農業環境技術研究所
理事長 佐藤洋平
研究担当者:(独)農業環境技術研究所
農学博士 大谷 卓
農学博士 清家伸康
TEL 029-838-8329
広報担当者:(独)農業環境技術研究所
福田直美
TEL 029-838-8191 FAX 029-838-8191
1.わが国のキュウリ生産はカボチャを台木とした接木栽培が主流です。そこで、ディルドリンで汚染された土壌を用いて、キュウリ栽培で一般的に用いられている台木用カボチャ10品種および穂木用キュウリ23品種の幼植物を栽培し、茎葉部のディルドリン吸収量を比較したところ、それぞれ約3倍の品種間差が認められました(図1)。
2.接木植物において、穂木キュウリ品種と台木カボチャ品種のどちらがディルドリンの吸収を支配しているかを調べるため、ディルドリン吸収能力に差のあった台木用カボチャ3品種および穂木用キュウリ2品種を選び、6通りの穂木/台木の組み合わせで作成した接木キュウリをディルドリン汚染土壌で生育させ、果実中のディルドリン濃度を比較しました。その結果、果実中のディルドリン濃度は台木カボチャ品種による影響を強く受けていることが明らかになりました(図2)。低吸収性の台木を用いると、果実中のディルドリン濃度はいずれの穂木品種の場合においても高吸収性の台木に比べて大幅に低減されました。
3.低吸収性台木品種の利用は、余分なコストや労力をかけることなく、キュウリ果実のディルドリン汚染を低減することが可能な技術として有望です。現在、地域の農業研究機関において、低吸収性台木によるキュウリ果実中ディルドリン濃度の低減効果について、現地実証試験を実施中です。
ディルドリン: 殺虫剤として、わが国では1954年に登録、1975年に失効した農薬。同じくPOPs条約対象物質であるアルドリンは土壌中で酸化され、ディルドリンとして残留する。アルドリン、ディルドリンともにわが国における生産量・使用量の確かな公表データはないが、1958〜1972年にアルドリンは3300t、ディルドリンは683tが輸入された。
残留基準: 食品衛生法第11条に基づく食品規格で、農産物中に残留しても許容される農薬の最大上限値。通常、1kg当たりの農産物にある農薬が残留する限度をmgとして「ppm(濃度単位:百万分の1)」で表される。
残留性有機汚染物質に関するストックホルム条約(POPs条約): 化学物質の中で、毒性、残留性(難分解性)、生物蓄積性、長距離移動性の4つの性質を併せ持つ12種の残留性有機汚染物質(Persistent Organic Pollutants を略してPOPsと呼ばれる)について、その削減や廃絶のための取り組みが定められた国際条約。2001年に採択され、2004年に発効した。
接木栽培: わが国では、土壌病害対策、品質および生産性向上の目的で、キュウリ栽培面積の約80%(施設栽培では約96%)で、カボチャ台木にキュウリ穂木を接いだ接木栽培が行われている。