プレスリリース
平成19年11月22日
独立行政法人 農業環境技術研究所

環境への負荷がより小さい低濃度エタノールを用いた
低コストの新規土壌消毒法の開発

独立行政法人農業環境技術研究所は、千葉県農業総合研究センター暖地園芸研究所、日本アルコール産業株式会社と共同で、2%程度の低濃度のエタノールを用い、広範囲の土壌病害虫などに防除効果のある低コストの新規土壌消毒技術を開発しました。

わが国では、農耕地における連作に伴って発生する土壌病害虫を防除するため、臭化メチルによる土壌くん蒸消毒が広く行われてきました。しかし、臭化メチルはオゾン層破壊物質であり、モントリオール議定書締約国会議において、それ以外では代替不可能な用途を除いて2005年に使用が禁止されたため、臭化メチルに替わる新たな土壌消毒技術が求められています。

本技術は、原料アルコールの蒸留精製時に生じる副生アルコールもしくは原料アルコール(エタノール)を水で2%程度に薄めて、かん水装置により畑土壌が湛水状態になるまで処理した後、農業用ポリエチレンフィルムで土壌表面を1週間以上覆うという低コストで簡便な技術であり、臭化メチルを代替する土壌消毒技術として実用化が期待されます。

研究推進責任者:(独)農業環境技術研究所

理事長 佐藤 洋平

研究担当者:(独)農業環境技術研究所 有機化学物質研究領域 主任研究員

小原 裕三

TEL 029-838-8306

広報担当者:(独)農業環境技術研究所 広報情報室 広報グループリーダー

福田 直美

TEL 029-838-8191 FAX 029-838-8191

電子メール kouhou@niaes.affrc.go.jp

[ 成果の内容の詳細 ]

1 臭化メチル土壌くん蒸剤は、モントリオール議定書締約国会議においてオゾン層破壊物質として2005年に生産および消費が全廃されましたが、有効かつ経済的に実行可能な代替技術が得られていない一部の用途では、規制除外対象として現在も使用されています(表1表2)。臭化メチルに替わり得る防除効果を有し、経済的にも実行可能な新規代替技術の開発が早急に求められています(表3)。

2 本土壌消毒法は、アルコール(エタノール)を水で2%程度に薄めて、かん水装置により畑土壌が湛水状態になるまで処理した後(写真1)、農業用ポリエチレンフィルムで土壌表面を1週間以上覆う(写真2)という簡便な技術です。

3 本土壌消毒方法で用いる数%程度の低濃度エタノール水溶液では、エタノールによる殺菌・殺虫効果などの直接的な防除効果は期待できませんが、これまでに、細菌、糸状菌、線虫、土壌害虫、雑草に至る広い範囲の土壌病害虫などに対し、防除効果が得られています(写真3)。

4 本技術が、土壌病害虫などの防除に有効な理由については、今後、解析が必要ですが、本技術を適用することで、土壌中の環境が酸化(好気的)状態から還元(嫌気的)状態に変化すること(図1)、有機酸濃度が増加することなどが要因として考えられます。

5 原料アルコールは、米国、ブラジル、タイ、インドネシア、中国などから、年間約36万キロリットルが輸入され、価格は50〜60円/リットルです。原料アルコールの蒸留精製過程で、高濃度エタノールを含有した副生アルコールが1%程度生じています。この副産物を有効利用することができます。

6 エタノールは、土壌中では数日で分解消失しますので、環境への負荷が小さく、安全性の高い技術であると考えられます。

7 フスマや糖蜜を用いた土壌還元消毒法が実施されていますが、至適温度条件、臭気などの問題点があり、適用が制約されることがありました。本技術では、これらの問題点が改善されます。

8 この技術については、実験室や土壌の異なる数種のほ場で確認しています。

9 本技術の実用化については、最も効率的な実用化の方法を関係機関と相談しながら進めているところです。

知的財産情報:

PCT/JP2007/000472「土壌還元消毒方法、土壌還元消毒剤、土壌湿潤化消毒方法、土壌湿潤化消毒剤および土壌消毒剤灌注システム」平成19年4月27日

[共同研究者]

植松 清次、 田中 千華 (千葉県農業総合研究センター 暖地園芸研究所)

佐藤理恵子、 *佐藤 充克 (日本アルコール産業株式会社)

* 現 山梨大学工学部附属ワイン科学研究センター

[参考資料]

表1
表2
表3
写真1
写真1 エタノール水溶液を湛水状態になるまで灌水処理
写真2
写真2 土壌表面を農業用ポリエチレンフィルム等で被覆する
写真2
写真3 効果の一例:キュウリ根のネコブセンチュウへの防除効果
エタノール1%溶液で処理した畑で栽培したキュウリの根には、
ネコブセンチュウの被害が全く見られない。
写真2
図1 エタノール2%水溶液(左)および水のみ(右)で処理した場合の土壌水中酸素濃度と酸化還元電位の推移
(農業環境技術研究所内、黒ボク土)
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