農業環境技術研究所プレスリリース

プレスリリース
平成20年9月30日
独立行政法人 農業環境技術研究所

遺伝子組換えダイズとツルマメとの自然交雑は極めて起こりにくい

一般に、ダイズやその近縁野生種であるツルマメは、同一花の中で受精する性質(自殖性)が強く、花粉が他の花へ移行して受精(他殖)する可能性は極めて低いことが知られています。このため遺伝子組換えダイズと日本に自生する在来ツルマメとの自然交雑率は極めて低いと考えられていますが、両種の自然交雑についての知見をさらに収集することを目的に、農業環境技術研究所(茨城県つくば市)の一般試験ほ場において、平成17〜19年の3年間にわたって除草剤グリホサート耐性遺伝子組換えダイズ 40-3-2 系統(以下組換えダイズ)とツルマメとの自然交雑に関する栽培実験を行い、その結果を取りまとめました。この実験から、遺伝子組換えダイズとツルマメとの自然交雑は極めて起こりにくいことが明らかになりました。

ツルマメの開花は、関東地方ではダイズの開花より約1ヶ月遅いことが知られています。一般に自然交雑は、両種の開花が一致する程度に影響されることから、本研究では、遺伝子組換えダイズの播種日を遅らせること、並びに開花期の遅い品種を用いることで、両種の開花期を近づける処理を行い、遺伝子組換えダイズとツルマメとの自然交雑がどのくらいの頻度で起こるのかを調査しました。

平成17年の調査では、遺伝子組換えダイズとツルマメの開花ピークを近づけ、両種をからみつくほど近づけて栽培する(混植区、写真1)ことにより、両種を交雑しやすい条件で栽培した場合、ツルマメより採取の種子から出芽した32,502個体中交雑している1個体が得られました(農業環境技術研究所 研究成果情報 第23集 P22-23)。

平成18、19年の調査では、混植区に加えて、組換えダイズから2、4、6、8、10m離してツルマメを栽培する距離区を設定しました(図1写真2)。平成18年の調査では、開花期の異なる遺伝子組換えダイズ4品種を用いたものの、両種の開花期の重複はほとんど見られず、混植区44,348個体及び距離区68,121個体中いずれにも交雑個体は認められませんでした。

3年間の検定個体数および自然交雑個体数
 検定個体数自然交雑個体数
平成17年混植区32,502
平成18年混植区44,348
距離区68,121
平成19年混植区25,74135
距離区66,671

一方、平成19年の調査では、より開花期の遅い組換えダイズ2品種を用い、6月20日および7月19日に播種したところ、播種を遅らせた遺伝子組換えダイズとツルマメの開花ピークがこの3年間の試験の中で最も近くなりました。こうした場合においても混植区では、25,741個体中、交雑個体は35個体であり、また、距離区(66,671個体)においても、遺伝子組換えダイズから2、4、6mの距離区で交雑個体はそれぞれ1個体、8、10mの距離区で交雑個体は認められないという結果となりました(表1)。

本研究の結果は、人為的に両種の開花期を近づけ、両種をからみつくくらい近くで栽培するという条件下でも、遺伝子組換えダイズとツルマメとの自然交雑が生じる頻度は、1,000分の1程度以下であることを示しています。

したがって、実際の自然条件下において自然交雑が生じる頻度は、これより更に小さくなるものと考えられます。

この研究は農林水産省委託プロジェクト研究「遺伝子組換え生物の産業利用における安全性確保総合研究」により、農業環境技術研究所が行ったもので、平成17年の成果の一部は、平成21年3月刊行予定の Weed Biology and Management (日本雑草学会英文誌) Vol.9、No.1 に掲載予定です。

研究推進責任者:(独)農業環境技術研究所

理事長  佐藤 洋平

研究担当者:(独)農業環境技術研究所 生物多様性研究領域

主任研究員  吉村 泰幸

広報担当者:(独)農業環境技術研究所 広報情報室 広報グループリーダー

福田 直美

TEL 029-838-8191
FAX 029-838-8191

電子メール kouhou@niaes.affrc.go.jp

[ 成果の詳細 ]

1 平成17年は、当研究所内の一般試験ほ場(3.4aと1.3a)で、除草剤グリホサート耐性組換えダイズ 40-3-2 系統(以下遺伝子組換えダイズ)およびツルマメ各36個体を栽培し、開花数を計測する試験とツルマメと遺伝子組換えダイズを6月20日、7月5日、7月20日の3回の播種日を設けて、からみつくほど近づけた状態で60組栽培し(混植区、写真1)、交雑の検定を行う試験を行いました。秋に採取したツルマメ種子を閉鎖系温室で発芽、育成させ、3から5葉期に除草剤グリホサートを散布し、枯死しない個体を交雑個体としました。さらに、組換えタンパクと遺伝子の有無を調査・解析し、遺伝子組換えダイズとツルマメとの自然交雑を確認しました(平成18年、19年も同様の方法で検定)。この結果、遅く播種した遺伝子組換えダイズほどツルマメの開花とのピークが近くなりました。交雑個体は、遺伝子組換えダイズを6月20日及び7月5日に播種した混植区のツルマメ種子7,814個及び12,828個の中にはありませんでしたが、最も遅く播種した(7月20日)混植区のツルマメ種子11,860個の中から1個体の交雑個体を得ました(表1)。

2 平成18年は、当研究所内の一般試験ほ場(20a)で、遺伝子組換えダイズの間にからみつくほど近づけてツルマメを網状の壁に沿わせて栽培する混植区および遺伝子組換えダイズから2、4、6、8、10m離してツルマメを網状の壁に沿わせて栽培する距離区を設けました(図1写真2)。遺伝子組換えダイズには、開花期の異なる4品種(40-3-2 系統: AG3602RR、AG3906RR、AG4801RR、AG5905RR)を用いたものの、両種の開花期の重複はほとんど見られず、混植区(44,348個)においても、距離区(68,121個)においても交雑個体は得られませんでした(表1)。

3 平成19年は、平成18年と同様のほ場配置で、開花期の遅い遺伝子組換えダイズ2品種(AG5905RR および AG6702RR)を6月20日と、それから約1ヶ月遅らせて7月19日に播種しました。その結果、播種を遅らせた遺伝子組換えダイズとツルマメとの開花ピークが3年の中で最も近くなりました。こうした場合においても、混植区では、交雑個体は25,741個体中35個体であり(その中で AG5905RR との交雑個体は10個体、AG6702RR との交雑個体は25個体)、また、距離区(66,671個体)では、遺伝子組換えダイズから2、4、6mの距離で交雑個体はそれぞれ1個体(いずれも AG6702RR との交雑個体)であり、8、10mの距離で交雑個体は得られませんでした(表1)。

[ 参考資料 ]

写真1

写真1.平成17年の実験の様子 (撮影日 平成17年8月31日)

図1

図1.平成18,19年の実験ほ場の配置

写真2

写真2.平成18年の実験の様子 (撮影日 平成18年7月27日)

表1.平成17年から19年の遺伝子組換えダイズとツルマメの栽培条件、開花状況および自然交雑の結果一覧
組換えダイズおよびツルマメの開花状況検定個体数および自然交雑個体数栽培条件および用いた組換えダイズ品種
平成17年
組換えダイズおよびツルマメの開花状況(平成17年)
混植区
32,502個体中1個体

内訳
6月20日播種
7,814個体中0個体
7月5日播種
12,828個体中0個体
7月20日播種
11,860個体中1個体

両種をからみつくほど近づけた状態(混植区)で栽培(写真1
遺伝子組換えダイズは1品種AG3701RR
播種は3回、6月20日(実線)、7月5日(破線)、7月20日(太線)、ツルマメは、幼個体を、5月27日ごろに移植
平成18年
組換えダイズおよびツルマメの開花状況(平成18年)
混植区
44,348個体中0個体
 
距離区
68,121個体中0個体
混植区、距離区を設けて栽培(図1写真2
遺伝子組換えダイズに4品種AG3602RR(赤)、AG3906RR(茶)、AG4801RR(緑)、AG5905RR(青)を用い、播種は6月20日。ツルマメは5月22日に播種
平成19年
組換えダイズおよびツルマメの開花状況(平成19年)
混植区
25,741個体中35個体
(AG5905RRとの交雑は10個体、AG6702RRとの交雑は25個体)
 
距離区
66,671個体中3個体
(2,4,6mで各1個体、8,10mで0個体)
混植区、距離区を設けて栽培(図1写真2
遺伝子組換えダイズは2品種AG5905RR(赤)、AG6702RR(青)を用い、播種は6月20日(破線)および7月19日(実線)。ツルマメは5月22日に播種
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