ポイント
・ 農林業センサスの作物栽培面積データなどをメッシュ地図として表示するシステムを開発。
・ 台地、低地といった地形や流域ごとの栽培面積の変化がわかる。
・ 河川の流域など広い面積の農業環境の評価に利用可能。
・ データ閲覧システムを農業環境技術研究所ウェブサイトで公開。
独立行政法人農業環境技術研究所(農環研)は、作物の栽培面積などをメッシュ地図として表示できる「農業統計情報メッシュデータ閲覧システム」をインターネット上に公開しました。
農林業センサスデータは農林水産省が5年ごとに調査・公表している市町村および集落の単位で集計された統計情報です。農環研は、台地、低地といった地形や河川の流域ごとに集計を容易にするため、全国の土地利用の情報と農林業センサスデータとを統合し、約1km四方のメッシュ単位で作物の栽培面積などを算出しました。これを地図上に表示するシステムを開発し、農環研ウェブサイト( http://www.naro.affrc.go.jp/archive/niaes/ )で公開しました。
このシステムを利用して、農業に由来する窒素やリンの水質への影響、土壌侵食の危険性、農地の炭素蓄積機能などを、これまで以上に高い精度で推定できることが期待されます。
予算: 農業環境技術研究所運営費交付金研究 (2008-2009)
研究推進責任者:
(独)農業環境技術研究所 茨城県つくば市観音台3-1-3
理事長 佐藤 洋平
研究担当者:
(独)農業環境技術研究所 農業環境インベントリーセンター
上席研究員 農学博士 神山 和則
TEL 029-838-8272
広報担当者:
(独)農業環境技術研究所 広報情報室 広報グループリーダー
田丸 政男
TEL 029-838-8191
FAX 029-838-8191
電子メール kouhou@niaes.affrc.go.jp
わが国では地下水の水質汚染が問題となっており、平成11年に地下水の硝酸性窒素及び亜硝酸性窒素 *1 の濃度に環境基準が設定されました。しかし、現在でも全国各地の井戸において環境基準を超える濃度が観測される場合があり、その原因の一つが面源負荷 *2 であると考えられています 1) 。また、一部の湖沼では全窒素や全リンの水質基準を満たすことができていないため 2) 、平成18年に湖沼水質保全特別措置法 (湖沼法) が改正され、農地・市街地などからの面源負荷を削減する対策が推進されています。農地から発生する負荷 (発生負荷) が地下水や湖沼・河川の水質に及ぼす影響を明らかにするためには、発生負荷の量に加えて分布の情報が重要です。
一方、地球温暖化対策では、大気中の二酸化炭素を削減する方策の一つとして、土壌中への炭素の蓄積 (炭素蓄積機能) が注目されています。しかし、農地全体での蓄積可能量を推定するためには、どのような土壌でどのような作物が栽培されているかの情報が必要です。
そこで、国土交通省が提供している国土数値情報 *3 など既存の地理情報と、農林水産省が提供する農林業センサスデータを組み合わせ、低地、台地といった地形や河川流域ごとに集計が可能な、1kmメッシュ *4 データベースが必要と考えました。
1.国土数値情報の土地利用データと農林業センサスの集落データとを組み合わせることによって、1kmメッシュ単位で作物ごとの栽培面積がわかるデータベースを作成しました。
作成したデータファイルは、1kmメッシュコード (8桁の数値で表される位置情報) のほか、調査年次、経営耕地面積など21項目から構成されています(表1)。家畜飼養に関する項目は各農業集落の飼養頭羽数を農地面積の割合に応じて1kmメッシュに配分した値を使っています。
データベースには1970年から1995年まで5年ごとのデータが入力されており、これらのデータを活用することで、例えば、耕地面積の経年的な変化を1kmメッシュ単位で見ることができます(図1)。
2.このデータベースでは、市町村の区画ではなく、台地、低地といった地形や河川流域ごとの面積を集計できます(図2)。この特徴を活かし、河川流域単位で推定される窒素やリンの発生量を簡単に算出できます。
さらに、気象データと組み合わせることで、1kmメッシュごとに細かく窒素の発生濃度を推定することもできます(図3)。これまでの流域レベルでの発生濃度は農地率 *5 などを用いて大まかにしか推定できませんでしたが、1kmメッシュごとの窒素濃度を用いることにより、流域内での窒素濃度の違いや河川への影響などについて、今までよりも高精度に推定できるようになりました。
3.表示したい場所を選ぶことでこれらのデータを簡単に見ることができるようにインターネットに公開しました(図4)。農業環境技術研究所のウェブサイト( http://www.naro.affrc.go.jp/archive/niaes/ )の 「データベース・画像情報のページ」 で見ることができます。
現在、このデータを利用して、農地における土壌侵食危険性マップや農業由来アンモニア発生量マップなどを作成しています。
また、農業分野だけでなく、他の分野でもいろいろな種類の1kmメッシュデータが作成されています。これらのデータをさらに組み合わせることで、農地の炭素蓄積機能、河川水質への農地の影響などをこれまで以上に高い精度で推定でき、国、都道府県や民間企業に農業環境の評価や保全対策作り等に活用されることが期待されます。
参考資料
1) 地下水質測定結果(平成7年度〜20年度) (環境省)
http://www.env.go.jp/water/chikasui/
2) 公共用水域の水質測定結果(平成10年度〜20年度) (環境省)
http://www.env.go.jp/water/suiiki/
*1 硝酸性窒素及び亜硝酸性窒素: 硝酸イオン・亜硝酸イオンの形で存在する窒素で、植物や微生物の養分であるが、土壌から水系へ流出しやすく、地下水の汚染や河川・湖沼の富栄養化の原因となる。地下水・河川・湖沼・海域に関して、人の健康を保護するための環境基準が両イオンの合計で10mgN/Lに設定されている。
*2 面源負荷: 汚水処理場や工場など発生源が明らかな場所から発生する負荷(点源負荷)に対して、農地や市街地など広い面積から発生するため、地点を特定しにくい負荷をいう。
*3 国土数値情報: 国土に関する基礎的な情報の整備、利用等を行う国土情報整備事業によって作成された情報で、地形、土地利用、公共施設、道路、鉄道など国土に関する地理的情報を数値化したもの。これらのデータは国土交通省から無償で提供されている。( http://nlftp.mlit.go.jp/ksj/ )
*4 1kmメッシュ: 面的な広がりを持つ統計情報などを扱う際に全国的な規模で位置を特定するために用いられる単位の一つで、メッシュの定義とコード体系は日本工業規格となっている。メッシュの一辺の長さが約1kmなので1kmメッシュと呼ばれる。3次メッシュ、基準地域メッシュともいう。
*5 農地率: 市町村や流域など特定領域の全面積のうち、農地が占める割合。