ポイント
・ 農地の土壌に蓄積する炭素量の増減を計算 (予測) するウェブサイトを公開しました。
・ 地図上で農地の場所を指定し、作物や管理方法をメニューから選ぶだけで、土壌炭素の増減を予測できます。
・ 農地土壌炭素蓄積は、生産力の向上や温室効果ガスの削減につながります。
1. 独立行政法人農業環境技術研究所 (農環研) は、農地土壌に蓄積する炭素量の増減を計算し、土壌の二酸化炭素 (CO2) 吸収量として示すウェブサイトを作成しました。
2. 対象とする農地を地図上で選び、栽培する作物や栽培管理方法をメニューから選択するだけで、その農地の土壌炭素量の変化を予測できます。
3. 農地土壌への炭素貯留 (CO2 吸収) による温室効果ガス削減の効果が注目されていますが、このサイトを利用して、農家や行政、生産者団体などが、その効果を簡単に試算できます。
4. ウェブサイト 『土壌のCO2 吸収量 「見える化」 サイト』 ( http://soilco2.dc.affrc.go.jp ) は、2013年10月2日から公開します。
予算: 農林水産省委託プロジェクト研究 「気候変動に対応した循環型食料生産等の確立のための技術開発(気候変動対策プロ)」 A-1系 「農業分野における温暖化緩和技術の開発」 (平成22年度〜26年度)
研究推進責任者:
独立行政法人 農業環境技術研究所 茨城県つくば市観音台 3-1-3
理事長 宮下 C貴
研究担当者:
独立行政法人 農業環境技術研究所 農業環境インベントリーセンター
上席研究員 白戸 康人
電話 029-838-8235
研究員 大澤 剛士
研究員 高田 祐介
広報担当者:
独立行政法人 農業環境技術研究所 広報情報室
広報グループリーダー 小野寺 達也
電話 029-838-8191
ファックス 029-838-8299
E-mail kouhou@niaes.affrc.go.jp
1. 農地の生産力を維持・増進するための有機物管理が、近年、地球温暖化の緩和策の一つとして期待されています。それは、農地に投入する有機物の量を増やすことで土壌中の炭素量が増えると、その分、大気に放出されるCO2 が減少することになるためで、これを土壌の炭素貯留 1 と呼びます (図1)。
2. しかし、土壌に蓄積する炭素量がどの程度増減するかは、同じような管理を行っても、気象条件や土壌の種類など様々な要因が関係するため、場所によって大きく異なる場合があります。
3. また、土壌炭素の変化はゆっくりなので、増減の程度を実際の畑や水田で計測して把握するためには、長い期間が必要です。
図1 土壌の炭素循環の模式図
1. 農環研では、土壌炭素の長期的な動態を予測するために英国で開発された土壌炭素動態モデル RothC を、日本において一定量の有機物や肥料を長期間投入し続けた試験 (長期連用試験) のデータを用いて検証し、日本の農地向けに改良してきました (改良 RothC モデル 2 )。
2. この改良 RothC モデルを使うと、管理や場所の条件によって異なる土壌炭素量の増減を予測できます。
3. このウェブサイトは、改良 RothC モデルと、土壌や気象などのデータベースとをインターネット上で結合することで、ウェブ上で土壌炭素量の増減のモデルによる計算を実行して計算結果を表示します。
1. サイトのトップページではサイトの目的や内容を簡単に紹介しています。緑色のバーをクリックすると、「計算」 のページとQ&Aやリンクのページに移動できます (図2)。
図2 サイトのトップページ
2. 「計算」 のページでは、まず、地図が表示されます。ユーザーが地図上をクリックすると、その場所の位置情報(緯度経度)を利用して、気象と土壌の情報を得ることができます (図3)。
図3 「計算」 のページ (場所の選択)
3. 次に、作物の種類と茎葉などの作物残渣(ざんさ)の処理方法をメニューから選択します。メニューから選択するだけで、特に残渣の量を数値で入力しなくても済むよう、あらかじめデフォルトの値(初期値)が入っています。一方で、作物残渣の量についての実測データを持っていて、それを入力したいユーザーのために、直接数値を入力することもできるようになっています。
4. 続いて、堆肥施用の有無を選択します。施用する場合は種類を選択しますが、ここでも、堆肥の量を入力しなくてよいようにデフォルトの値が用意されています。
5. その後、ここまで選択した条件を確認するページが表示されます。ここで、計算する条件を変えたい場合は、直接修正できます。
6. 「計算開始」 をクリックすると、気象や土壌の情報、ユーザーが選択した作物や管理の情報が、自動的に改良 RothC モデルに入れられ、現在から20年間 3 の土壌炭素量の増減が計算され、結果がグラフで示されます(図4)。また、ユーザーが選んだ管理条件と 「標準的な管理」 とを比較し、排出削減の効果を乗用車のCO2 排出量に換算して示すなど、分かりやすい説明を加えています。
7. このように土壌炭素量の増減をウェブ上で簡単に計算できることで、どのような管理がどのような効果を持つかについてユーザーの理解が深まり、農業部門からの温室効果ガスの削減につながります。
図4 「計算」 のページ (結果の表示)
今回計算した農地土壌に蓄積する炭素の増減は、二酸化炭素(CO2)の吸収または排出を意味しますが、温室効果ガスには、他にもメタン(CH4)や一酸化二窒素(N2O)があります。農地の土壌炭素を増やすために有機物を多量に入れると、大気中のCO2が減少する代わりにCH4やN2Oの排出が増えることがあります。そこで、今後は、CO2(土壌炭素の増減)、CH4、N2Oの3つの温室効果ガスをそれぞれ計算し、総合的に評価できるよう、また、これら土壌由来の温室効果ガスに加えて、営農の過程で使用される作業機械や資材に関わる化石燃料由来のCO2排出もあわせた総合評価ができるように、ここで紹介したサイトの内容を拡充する計画です(平成25年度中を予定)。
1.土壌の炭素貯留
農地の生産力を維持するには、堆肥や緑肥をすき込むなどの有機物管理が重要です。有機物管理により、土壌に有機物がすき込まれると、土壌有機炭素が蓄積されていきます。
土壌有機炭素は、もともと植物が光合成で大気から吸収した炭素に由来するので、土壌有機炭素が増加するとその分だけ、大気のCO2が減少することになります。この現象を 「土壌の炭素貯留」 と呼びます。
2.改良 RothC モデル
ローザムステッド・カーボン・モデル ( Rothamsted Carbon Model: RothC ) という英国で開発された土壌炭素動態モデルを、日本各地の水田や畑の有機物や肥料の長期連用試験データを使って検証し、改良してきました。これを 「改良 RothC モデル」 と呼びます。このサイトでは、この 「改良 RothC モデル」 を使って計算が行われています。
このモデルは、土壌中の有機炭素を分解率の異なる5つの画分に分けて計算し、気象、土壌、管理の基本的な情報を入れるだけで、土壌炭素量の変化を1か月単位で計算します。
3.土壌炭素を20年間計算
一般的に、土地利用や管理を変えて長年継続すると、図5 の破線のように、土壌炭素ははじめ急激に、その後ゆっくりと変化し、20年程度でほぼ一定の値になります (国の温室効果ガスの排出量を報告する方法を示した IPCC (気候変動に関する政府間パネル: Intergovernmental Panel on Climate Change ) ガイドラインでも、これを簡略化して、図5 の実線のように20年で直線的に変化し、その後はほぼ一定の値をとるよう仮定しています)。そこで、このサイトでも、20年間の土壌炭素量の変化を予測することにしました。
図5 農地の管理を変えることによる土壌炭素量の変化パターンの模式図
新聞掲載: 日本農業新聞(10月3日)