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NIAES
平成25年11月13日
独立行政法人 農業環境技術研究所

作物気象データベース 『MeteoCrop DB』 改訂版を公開
―最新データの提供でイネの生育診断や高温対策への利用が可能に―

ポイント

・ 作物気象データベース 『MeteoCrop DB』 が改訂され、Ver.2 として公開されます。

・ 改訂版ではイネの生育診断や高温対策の策定などに必要な、2日前までの最新の作物気象データが利用できるようになります。

概要

1. 独立行政法人農業環境技術研究所 (農環研) は、「モデル結合型作物気象データベース改訂版 (MeteoCrop DB Ver.2)」 を11月13日から公開します。URLは、http://meteocrop.dc.affrc.go.jp/real/ です。

2. MeteoCrop DB は、地球温暖化などの気候変動が日本各地のイネ生産にどのように影響するかを解析するために開発された気象データベースです。気温や日射量などの基本気象要素に加えて、イネの収量や品質に大きな影響を及ぼす水田水温や穂温など、一般の気象観測では得られない水田の微気象データの推定値を提供します。これまで、主としてイネの生産に関わる研究者や技術者が、今後の温暖化対策のための基礎情報として利用してきました。

3. 改訂版では、データの更新をこれまでの月1回から毎日に変更し、アメダス地点*1と地上気象観測所*2における、2日前までの最新の作物気象データ*3を提供します。これによって、全国の試験研究機関や普及・指導機関が、栽培中のイネの生育診断や高温被害の回避対策の策定などを行う際に活用できるようになります。

4. なお、従来版は、これまでの利用者に対する便宜のため、1年程度は更新と公開を継続します。

予算:

農業環境技術研究所運営費交付金研究 (2010-2012)

問い合わせ先など

研究推進責任者:

独立行政法人 農業環境技術研究所 茨城県つくば市観音台 3-1-3

理事長  宮下 C貴

代表研究担当者:

独立行政法人 農業環境技術研究所 大気環境研究領域

上席研究員   桑形 恒男

TEL: 029-838-8202

広報担当者:

独立行政法人 農業環境技術研究所 広報情報室

広報グループリーダー  小野寺 達也

TEL 029-838-8191
FAX 029-838-8299
E-mail kouhou@niaes.affrc.go.jp

開発の社会的背景と研究の経緯

1. 2000年代に入って、夏季の高温によるコメの品質低下が西日本を中心に顕在化し始め、2010年や2012年には猛暑の影響で、北日本でも品質が低下しました。今後、地球温暖化がさらに進行した場合、イネの生産に大きな影響を及ぶことが懸念されます。

2. 農環研は、地球温暖化などの気候変動が日本各地のイネの収量や品質にどのような影響を及ぼすかを解析するための 「モデル結合型作物気象データベース(MeteoCrop DB)」 を、2009年3月にウェブサイト ( http://meteocrop.dc.affrc.go.jp ) で公開しました。MeteoCrop DB には、気温や日射量などの基本気象要素に加えて、水田水温や穂温などの一般の気象観測では得られない水田の微気象データの推定値が収納されています。水田の微気象環境はイネの収量と生育に大きな影響を及ぼします。

3. 本データベースは、主としてイネの生育に対する地球温暖化の長期的な影響を調べる目的で開発されましたが、全国の試験研究機関などから、栽培中のイネの生育診断や高温被害の回避対策の策定などにも活用したいという要望が寄せられていました。

研究の内容・意義

1. MeteoCrop DB Ver.2 では、全国の気温、降水量、日照時間及び風向風速を観測しているアメダス地点(約850地点)における1970年代後半以降の作物気象データと、地上気象観測所における1961年以降の作物気象データを提供します。従来版と同様に、地点選択のメニュー画面または Google マップの地図上でアメダス地点か地上気象観測所を選ぶことで (図1)、作物気象データを容易に取得できます (図2)。データベースは毎日更新され、2日前までの最新の作物気象データが利用可能です。

2. 作物気象データは日単位の気象環境情報であり、アメダス地点で測定されている気温、風速、降水量、日照時間の4つの基本要素に加えて、日射量や湿度などの推定値、蒸散要求量*4や水田水温のモデル計算値なども提供されます(図2)。これらの推定値・計算値は、いずれもイネの収量や品質に重要な影響を与える要素です。これらデータは、表計算ソフト用ファイルまたはテキスト形式ファイルとして、利用者のパソコンにダウンロードすることもできます。改訂版では、全国のアメダス地点と地上気象観測所における、3日前までの時別の推定日射量を新たに追加しました(図3)。時別の推定日射量は、日射観測が実施されていない観測点における穂温推定などに活用できます。

3. 最新の作物気象データが利用できることで、栽培中のイネの生育診断や高温被害対策が可能になります。具体的には、生育モデルや微気象モデルと組み合わせることで、田植えから2日前までのイネの栽培環境 (日射量や水田水温の推移) や生育状況を、把握することができ(図5)、現在の生育状況と今後の天候予測を踏まえた上での、技術的な適応策 (高温被害を低減させるための肥培管理や病害虫防除など) の策定や指導などに役立てることができます。

今後の予定・期待

1. 全国にある試験研究機関や普及・指導機関により、栽培中のイネの生育診断や高温被害の回避対策の策定などに広く利用してもらうように普及を図ります。また農業法人や個人農家などが、情報通信 (ICT) 技術を活用したイネの生産管理システムを構築する上での基礎データとしても利用可能です。

2.本データベースには、1970年代後半以降を対象としたイネの生育ステージ予測 (アメダス、約850地点) と、1991年以降の出穂・開花期における穂温推定 (地上気象観測所、約150地点) ができる仕組みが備わっています。今回の改訂では、複数のイネ品種に対して生育ステージを予測する機能を試験的に導入しました。この機能については、利用者からの要望なども参考にして、改良を進める予定です。

用語の解説

*1 アメダス: 気象庁が運用している無人の 「地域気象観測システム」 の略称。全国の約1300地点において降水量を観測しているが、このうちの約850地点では、降水量に加えて、風向・風速、気温、日照時間を観測している。

*2 地上気象観測所: 気象庁が運用している地上気象観測点の総称。全国に約150地点の観測所があり、有人の気象官署と特別地域気象観測所(無人)からなっている。気圧、気温、湿度、風向、風速、降水量、積雪の深さ、降雪の深さ、日照時間、日射量、雲、視程、大気現象等の気象観測を行っている。

*3 作物気象データ: MeteoCrop DB で提供される日別気象データの総称。気温、風速、降水量、日照時間の観測値に加え、日射量や湿度などの推定値、蒸散要求量や水田水温 (移植直前と出穂前後の群落が十分に発達した条件での日平均値) のモデル計算値などからなっている。

*4 蒸散要求量: 蒸発散によってイネ群落から大気中に放出される水 (水蒸気) の必要量であり、イネの生育に必要な水消費量の目安量となる。これを示す指標がいくつか提案されており、MeteoCrop DB では、ポテンシャル蒸発量とFAO基準蒸発散量を、日々の気象データから算定する。蒸散要求量は気象条件のみに依存するが、実際のイネ群落からの蒸発散量は、栽培管理や品種などの影響も受けて変化する。

担当研究者

(独)農業環境技術研究所 大気環境研究領域 (作物応答影響予測リサーチプロジェクト)

上席研究員  桑形  恒男
主任研究員  吉本真由美
上席研究員  長谷川利拡
主任研究員  石郷岡康史
主任研究員  西森  基貴

改訂版のトップページで[アメダス地点]を選択し、さらに[地図から選択]を選択した様子:googleマップ上に表示されるアメダス地点のひとつをクリックすると、アメダス番号、経度・緯度、高度、土壌種類が表示される。

図1.モデル結合型作物気象データベース (改訂版、アメダス地点) の地点選択画面
作物気象データ取得メニューを開いた後、「地図から選択」 ボタンをクリックすると Google マップの画面が現れ、目的とするアメダス地点を選択することができる。左側のプルダウンメニューからも地点選択が可能である。地上気象観測所に対しても同様なメニューが表示される。

図1で地点を選択後、月を選択してデータを表示した画面

図2.作物気象データの表示例
図1で地点を選択後、「データ表示」 ボタンをクリックすると、作物気象データが表示される。ここで 「利用フラグ表示」 ボタンをクリックすると、データの品質を表す情報 (フラグ情報) もあわせて出力される (数値のみの欄は正常値、/// は欠測値、] は資料不足値、) は準正常値をそれぞれ示す)。これらデータは、表計算ソフト用ファイルまたはテキスト形式ファイルとして、利用者のパソコンにダウンロードすることもできる。

地点と月を選択後、[時別推定日射量]をクリックしてダウンロードした「時別推定日射量」CSVファイルをエクセルで表示した画面

図3.時別の推定日射量の出力例
「時別推定日射量ファイル」ボタンをクリックすると、該当地点における3日前までの時別の推定日射量が、テキスト形式のファイル(csvファイル)で出力される。

3つの地点(札幌、松本、那覇)における、3つの期間(2005年4月、7月、10月の最初の3日間)に観測された時別日射量と推定日射量を比較した9つのグラフ

図4.時別の推定日射量と観測データとの比較例
実線(青色):測定値、 破線(ピンク色):推定値。
各地の時別日射量が高精度で推定されていることがわかる。

3つの地点(札幌、松本、那覇)における、3つの期間(2005年4月、7月、10月の最初の3日間)に観測された時別日射量と推定日射量を比較した9つのグラフ

図5.作物気象データを用いた水田における気温・水温と生育ステージの推定例#1(コシヒカリ、宮崎県西都市、2002年)
(a) 現地圃場における気温・水温の推移。
(b) 作物気象データ(アメダス地点:西都)に、生育モデルと微気象モデルを適用して得られた、気温・水温の推移と生育ステージ(幼穂形成日と出穂・開花日)の推定結果。
 MeteoCrop DB Ver.2 では、最新の作物気象データを用いることで、2日前までの気温・水温の推移や生育ステージの推定結果を得ることができる。
#1 出典:Kuwagata et al. (2011) J. Agric. Meteorol., 67(4), 297-306.

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