蚕糸昆虫研ニュース No.39(1998.6) 


<研究と技術>
細繊度・広食性蚕品種「ほのぼの」
 

 海外からの安価な生糸や絹製品の輸入が増加し,厳しい国際競争が続く一方で,シルクに対する消費者ニーズの多様化・高級化が進んでいる。このような中でわが国の蚕糸業を発展・継続するには,高付加価値化・差別化製品の開発が最も重要であり,ブランド化の動きもその一つの方向である。蚕育種に対しても多様な要望が出されているが,最も要望の強いのは細繊度繭の蚕品種育成である。
 一方,10年程前に畜産用の飼料素材を主成分とした低コスト人工飼料が開発され,同時にこの飼料に適合する広食性蚕品種の育成が行われてきた結果,これまでに6種の実用品種が育成された。しかし,これらの品種は繭糸質が普通品種に比べて幾分劣るため,普及するに至っていない。
 そこで,蚕育種研究チームでは,付加価値の高い細繊度繭の低コスト生産を目的に,細繊度性と広食性という二つの特性を合わせ持つ蚕品種の育成を行った。繊度は「あけぼの」並の2デニール内外を目標にし,広食性はLPY-141飼料を用いて選抜したところ,二元交雑種(育成記号:N32×CS6)を選出できたので,平成9年度の農林水産省委託蚕品種性状調査に提出した。その結果,低コスト人工飼料によく適合し,細繊度の特性も備えていることが認められ,平成10年1月に特殊用途用の「日513号×中514号」として指定された。この品種は厳しい状況にある蚕糸業に暖かい恵みを与えて欲しいとの願いから,「ほのぼの」という愛称が付けられた。

「ほのぼの」の特徴」
 原種のうち,日513号は形蚕斑紋を有し,中514号は雌が形蚕,雄が姫蚕となる限性形質を有しているが,交配した「ほのぼの」はいずれが母体になっても形蚕斑紋が現れる。稚蚕期はもちろんのこと全齢を通して低コスト飼料による飼育が容易である。
 繭糸繊度は「しんあけぼの」等,既存の細繊度品種とほぼ等しく,普通品種より3割程度細い2.2デニール内外である。また,飼育日数,繭糸長,繭重,収繭量,生糸量歩合などの計量形質も既存の細繊度品種と同等である。したがって,「ほのぼの」の特性を一口で言うと,「あけぼの」並の繊度特性を持つ広食性蚕品種,と言うことになる。
 壮蚕期の飼育取り扱いは,給桑量を少なめにするなど,既存の細繊度蚕品種の基準に従って行い,上蔟環境を良好にした解じょ率が低下しないよう努めることが重要である。

用途
 既存の細繊度蚕品種と異なるのは,低コスト人工飼料を用いて飼育できる点であり,桑葉育と全齢人工飼料育を併用した年間多回育に利用するのが有利である。最近,各地で生繰りによる高品質の生糸がつくられているが,高付加価値繭を用いた新しい用途開発という観点から年間を通した「ほのぼの」の生繭の計画生産が有効と思われる。
 太さの同じ生糸をつくる場合,細繊度繭糸の場合は撚りあわせる本数が多くなることによって柔らかくて強度の強い生糸になり,しなやかで光沢に富む織物ができる。「ほのぼの」の繭からは14中,21中のような細もの生糸がつくられ,高級着物地,洋装婦人服,フォーマルドレス,スカーフなど軽やかでソフトな肌触りとなる製品に利用されると考えられ,細繊度繭の一層の用途拡大が期待される。

(生産技術部 蚕育種研究チーム 山本俊雄)
 
 
 
 
表 「ほのぼの」の主な性状
  全  齢   化  蛹   1箱当たり 
日  数   歩  合   収 繭 量   繭  重   繭層重
生糸量           繭 糸   解じょ 
歩   合   繭糸長   繊 度       率  小 節
初秋蚕期 
晩秋蚕期
    日        %                  kg                g               g 
    23.0            94.6                32.8           1.80           0.40 
    24.3            94.3                32.8           1.83           0.42
       %               m        デニール            %       点 
   18.6           1420          2.10           68        95.1 
   18.7           1312          2.33           84        95.9
 
 
 平成9年,全国の11カ所で実施された性状調査の平均値。1〜4齢を低コスト人工飼料,5齢を桑葉で調査した。
 

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