蚕糸昆虫研ニュース No.40(1998.9)

<情報コーナー:帰国報告>
イギリス・サウサンプトンから
 

 ハンプシャー州の南に位置するサウサンプトンは,クイーンエリザベス号やタイタニック号を生み出した港町である。アメリカに渡ったピルグリムファーザーズの乗ったメイフラワー号が進水式をしたのもこの街だった。造船業が盛んだった時代には,英国一の港街としてその産業の中心にあった。だが,二十世紀初頭,飛行機が主な交通手段として船舶にとって替わると,街は次第に産業から取り残されていった。そして,第二次世界大戦。ドイツ軍の爆撃によって,古くからの街並のほとんどは破壊され,多くの市民がその犠牲となった。今では,残された城門の一部や崩れた城壁,そして幾つかの建物から,往年のサウサンプトンをかろうじて垣間見ることができるに過ぎない。
 サウサンプトンの歴史の概略を教えてくれたのは,迷った時に道を尋ねたお婆さんだった。「少し遠回りになるけど・・・」と言いながら(実際はかなりの遠回りだったらしい),ほぼ一時間かけて案内しながら説明してくれたのである。サウサンプトン大学は,そんな街の中心地にある海洋学部と,シティセンターからバスで15分程の所にある社会学や法学・工学部などのメインキャンパス,さらに5分程離れたところにある医学・生物学部とからなっている。生物学部のあるボールドウッドはコモンと呼ばれる公園に面した落ち着いた所だ。街のすぐ南には,ニューホレストと呼ばれる英国一広い国立公園があり,車や電車などで出かけていっては,のんびりと散策を楽しむことができる。また,フラットの近くを流れるイッチェン河畔は,コウモリを観察するにはもってこいの場所である。コウモリをここ何十年も観察し続けている夫婦にばったり出会ったのだが,話を聞くと,最近はコウモリも随分減ってしまったという。このように,趣味として野性の生き物を見続けている人が日本と比べて随分多い。
 さて,肝心の研究。ハキリアリやレッドウッドアントの持つ抗菌物質の検討に春先を費やしたものの,初夏からは「蟻と共生する蝶とそれに寄生する蜂」に関する研究に専念することになった。実験操作やその打ち合わせは,帰国前日まで続き,帰国後の今でも共同研究という形で進行中である。また,その結果については今年の国際社会性昆虫学会で発表することになる。野外でアリがまばらになる秋から冬にかけては,英国で主要なアントピープル(蟻人間ではない・・・蟻を研究する人のこと)バースやロンドン,リードの大学を訪れ,その研究室の学生やスタッフとアリについていろいろと語り合うことができた。その秋には,今後の打ち合わせも兼ねての英国訪問を予定しているが,できれば,また足を延ばしてみたいものである。

 
 

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