蚕糸昆虫研ニュース No.40(1998.9)

<情報コーナー:外国からの招へい等研究者の紹介>
 
新しい分野の昆虫学へ
 

 今井裕仁先生のおかげで初めて日本語と知り合ったのは1986年でしたが,それから実に12年後に,STAフェローとして日本で研究するチャンスに巡り会い,本当の日本文化に触れることができて,とても嬉しいです。
 わたしは,北京医科大学で鉛の腎小管細胞膜毒性に関する研究で医学博士号を取得した後,1997年7月までPostdoctorとして,北京大学生命科学学院生物膜及び膜生物工程国家重点実験室で,Patch-clamp法で,ラット脳の海馬神経細胞膜,大脳皮質神経細胞膜,骨格筋細胞膜のイオンチャンネルに対する鉛の影響,つまり,鉛の神経毒としての機構について研究をしました。その後も,来日までに完成させるべき仕事を仕上げるために,本当に忙しい毎日を送りました。
 1997年12月1日に日本に着くなり,早めに仕事をはじめました。北京で,初めて蚕糸・昆虫農業技術研究所生体情報部神経生理研究室という名前をみた時,自分はここで何ができるのか不安でした。生理学を勉強したといっても人体生理学でしたので,昆虫についてはほぼ知らない状態でした。しかし今では在日日数もすでに半年以上になり,昆虫についてはまだ知らないことが多いのですが,今使っている材料のワモンゴキブリについて,多少わかるようになってきました。研究室の皆さんのおかげで,安心して仕事が出来,そして,ゴキブリにもやはり面白い面がある,と思うようになってきました。
 いまはPatch-clampのWhole-cell記録方法で,ゴキブリのキノコ体のKenyon細胞の光,匂いなどの刺激に対する反応を調べており,もっと面白い結果を得られるように努力しています。


<情報コーナー:外国からの招へい等研究者の紹介>
 
蚕昆研での研究生活
 

 私は昨年度より,STAおよび生研機構のフェローとして低分子素材利用研究室に在籍し,レアル室長を研究リーダーとするプロジェクトに参加しています。当プロジェクトは,分子レベルで昆虫性フェロモンの受容と生合成機構を解明することを目的としており,私は主にフェロモン誘導体の合成を担当しています。
 在籍している研究室の特徴は,生態化学をはじめ,構造化学,電気生理学など,様々な分野の研究者が集まっていることです。このため,自分の専門分野以外の知識を容易にえることができ,毎週末の実験報告会では様々な助言を受けることができました。また多様な分析機器を扱う実験の中で,特にガスクロマトグラフ連結型触角電図(GC-EAD)法を用いた分析は,私の研究領域を広げることができる経験となりました。
 定期的に開催する公開シンポジウムでは,各国の著名な研究者や所内の留学生と直に話し合える機会が得られ,当研究所の層の厚さを強く感じることができました。一方,当研究所の図書館には,天然物化学や有機合成化学,分析化学に関する文献が少ないことが気がかりです。なぜなら新しい天然物質の探索とその物性の解明は,新しい素材の開発につながり,次の世代を担う技術の創造に繋がると考えているからです。
 私は次の採用先が内定し,もうじき日本を去ることになりますが,研究のみならず日本の文化などを経験できる貴重な機会に恵まれたことに深く感謝したいと思います。当研究所の所長,ならびにレアル室長や多くの皆様の支援に対し深く感謝すると共に,蚕糸昆虫研のさらなる発展を期待してやみません。

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