蚕糸昆虫研ニュース No.41(1998.12)

<情報コーナー>
INRAの試験場を訪ねて
 

 10月4日から14日まで,国際研究交流育成のための資金をいただいて,南フランスのサン・クリストルという小さな町に行って来ました。そこにあるINRAの比較病理試験場で,昆虫糸状菌の産生毒素について研究しているVey氏を訪ねるためです。2年前に国際学会で知り合ってから連絡をとり続けていましたが,今回は直接論議する時間がたっぷりあり,細かなことまで検討して大変楽しい日々でした。Vey氏の研究室以外はウイルスと細胞に関連した研究室で,若い研究者たちが10数名いました。彼らと話す機会があり,自分の仕事の他に蚕昆研のパンフレットの簡単な説明をしたのですが,広範な研究内容に大変興味を持っているようでした。もし,突然見知らぬフランス人から問い合わせがあったとしたら,私のせいかもしれません。試験場は正門から建物の周囲まで桑の木ばかりで,かつて蚕糸試験場だったことをしのばせるのですが,現在はフランスの養蚕業はほとんどゼロであり,夏を除いてカイコは実験昆虫としてさえ使用されていないようです。話に聞いていた通り,アフリカの国と共同の養蚕再興計画はあるのですが,ゼロからの再出発のため予想以上に困難で,更にプリオンのおかげで農業対策のお金は畜産農家に流れ,結局うまくいっていないということでした。「日本の蚕糸業は小さくなってもいいから,ゼロにはするな」と言われましたが,できるでしょうか。近くにある渓谷沿いの村々は桑をパンの木と呼ぶ養蚕の地だったようですが,その生活は今では文字通り博物館入りし,その周囲の平地はブドウの大産地となっています。ガリーグと呼ばれる石灰質のやせた丘陵地にはオリーブがあり,10年に数回は害虫のマイマイガが大発生するそうですが,防除には手間をかけず,後発する天敵によって駆逐されるのを待つようです。そんなのんびりした南フランスの人々と知り合えたこともうれしいことでした。
 

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