蚕糸昆虫研ニュース No.43(1999.6)

<情報コーナー>
科学技術庁研究功績者賞を受賞して

 平成11年度研究功績者として各分野から42件(42名)、農学関係では5名の中に選ばれました。誠に光栄であり、これまでご指導ご援助を頂いた多くの方々に心よりお礼申し上げます。
 受賞対象の「バイオポリマー素材としての絹の利用技術に関する研究」は絹糸の粉末化とフィルム化に関する研究です。これらは蚕糸試験場から蚕糸・昆虫農業技術研究所に改組があった10年程度前から始めました。
 絹糸の粉末化は大型別枠「新需要創出」の研究課題で、粒子径が5μm程度の結晶性絹微粉末の製造を可能としました。従来の非結晶質を含む多くの絹粉末と異なり、この粉末は絹糸と同様に固く、吸・放湿性に優れているため、塗料と混ぜ、塗装したところ、ドライで穏やかな手触りとなり、好評を得ています。塗布の対象物はプラスチック、スチール、木材等に可能であり、時計の外装に塗布されセイコー(株)より国内外で平成10年5月から販売されています。
 絹糸のフィルム化は「COE」の研究課題で、非結晶性絹フィルムの作出と創傷被覆材としての利用を図っています。動物実験では創傷被覆材としての効果が認められ、当面はペット用の開発が期待されています。いずれも、生体適合性素材である絹糸を繊維以外の形に変えて利用を図るものですが、重要な点は絹糸を利用する生体部分に適合した構造と物性に変えることです。
 私の研究手法は、まず実験をしてから考えることを常としています。30年近い研究活動の中から、同じ研究分野を目指す人は多くても、人は全く同じ手法をとらないものだと思っています。絹新素材の開発は広い分野から強く期待されていて、現在3企業と共同研究を進めています。絹をバイオ素材として新たな分野へ利用できるよう奮闘していきたいと考えています。
    

(機能開発部 坪内紘三)

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