蚕糸昆虫研ニュース No.43(1999.6)

<情報コーナー>
バッタの生殖の内分泌制御に関する共同研究

 昨年末に在ケニア共和国、国際昆虫生理生態学センター(ICIPE)を11年ぶりに訪ねた。かつて活気に満ちていたセンターが、やけにひっそりとしていた。リストラによって800人ほどいたスタッフが今は100人足らずに減っていた。学位を持つ主任研究者の年給が700〜800万円、専門学校を卒業したテクニシャンが150万円とスタッフの待遇は格段に改善された。新しいセンター長を迎え、少数精鋭で戦う政策に切り替えたようだ。今回は JIRCAS からバッタの課題で約2カ月間派遣された。 
 アフリカ大地の砂漠化が進行する中、バッタの大発生の頻発が危惧されている。バッタ研究の問題点のひとつはその飼育に大きな経済的(人件費)コストがかかることである。そこで人工飼料を用いた簡易飼育の開発が求められた。人工飼料を用いることによってコストの削減が大いに見込まれたが、雌成虫の卵巣発育の遅延が問題点として残された。卵巣発育を制御している幼若ホルモンの合成活性は人工飼料によって強く影響を受けたが、その反応はバッタの種類によって興味深く異なることがわかり、人工飼料を用いることによって、バッタの生殖の内分泌制御機構の新たな側面を観察できた。詳しい結果については、また別の紙面で紹介したい。
 11年前にビクトリア湖畔にある ICIPE の Mbita 支場で仕事をしていた時、まわりの漁師たちの村に未亡人が多いことを耳にした。社会科学者が調査したところ、漁師が20人中1人しか泳げないことがわかった。確かに湖畔は、カバやワニ、住血吸虫を含む寄生虫などが生息する決して安全な遊泳場所ではないが、泳げないのに漁に出かける彼らの楽天さに少なからず驚いたものだ。今彼らの村を冷酷に襲っているのがエイズである。彼ら自身の口から聞いたエイズ感染率の数字と彼らの陽気さとの間のギャップに強烈な驚きと悲しみを覚えた。最後に新しい体制の ICIPE とそれをバックアップする JIRCAS の今後の活躍を期待するとともに、彼らへの研究協力を微力ながら継続できればと考えている。また、 Mbita の人々の平穏な生活を心から希望する。
 

           (生体情報部 奥田 隆)
 

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