ビデオカメラによる観察から、トビイロウンカの産卵行動は以下の一連の動作からなることがわかった(図上)。雌はまず針状の口を挿入後に、腹部を曲げて鋸状の産卵管を口針の挿入点のやや下に突き刺すと、前後に往復させイネ組織を切り裂きつつ挿入した。挿入し終えると、担弁部の筋肉を数回収縮させて卵を排出してから腹部を左右に振りながら引き抜き動作に移った。産卵管の全長8割程を引き抜くと、再び往復させて下方に切り裂きながら挿入し、次の卵を産んだ。通常、これら一連の動作を数回反復して卵塊を形成したのち産卵管を完全に引き抜いた。一方、電気的測定装置(0.5V,500Hz)による同時測定は、産卵管の挿入に伴う急激な電位の上昇に続いて、産卵管による切り裂き、卵の排出、産卵管の引き抜きの各動作にそれぞれ相関した特徴的な波形が記録された(図下)。
このことは、電気的測定で得られる種々の波形に対して、産卵行動をモニタリングする上で必要な解釈が与えられたことを意味する。これより、本装置で長時間記録して得た波形に基づいて、産卵行動を正確に把握することが可能となった。植物組織内に産み込まれる微小な卵の数を実体顕微鏡下で調べるという労力も不要である。なお、測定に際しては虫を金線で繋いで電流を流すことから、これが正常な産卵行動を妨げているとの懸念があった。しかし、線で繋いでない個体と比べて1日当たりの産卵数、卵塊数に違いがなかったことから、その影響はほとんど無視できると思われる。
本法を用いれば、得られた波形から産みつけられた卵(卵塊)の数とその時刻を正確に読みとることはもちろん,産卵が中断された場合,どの行動ステップで中止したか等の解析が可能である。今後、トビイロウンカの産卵行動の日周性、さらには産卵されにくいイネの品種、部位、生育ステージに関連して様々な情報の収集が期待できる。なお、本法は類似の産卵行動をとる他の半翅目昆虫においても広く適用できるであろう。