蚕糸昆虫研ニュース No.44(1999.9)

<研究と技術>
有用物質生産のためのバイテク養蚕技術体系

 
 蚕の生体を有用物質を生産する工場に見立て、組換えウィルスが蚕の体内で作る各種蛋白質等を医薬・農薬などに利用することには、大きな可能性が期待されている。
 大量規模で効率的な生産プラントを開発し実現するためには、蚕品種の選定と評価、材料用蚕の供給、効率的なウィルス接種、蚕の大量飼育と発育制御、有用物質の回収、組換えウィルスの拡散防止等の諸技術の開発やシステム化が必要である。私たちの研究グループではこれら各行程の個別技術を開発し、一連の作業体系に組み立てた。
  材料蚕には有用物質の生産量の多さで選抜された系統を用い、開発された連続注射装置により、2万頭の蚕に組換えウィルスを接種した。接種後の飼育、取り扱いでは組換えウィルスを外部に拡散させないことを配慮して給餌、蚕の回収、除沙などの処理を行った。体液の採取では凍結採取法を用い、蚕を回収してアルコール液中に凍結保存した後体液を採取した。これらの各工程間での蚕の運搬には、専用のダンボール製使い捨て容器を使用した。
   組換えウィルスの接種は5齢1日目とし、起蚕に除沙網をかけ、少量の飼料を給餌し、除沙時に運搬用容器に移して接種して、予め飼料を用意した自動飼育装置の蚕座に移した(写真)。接種後の給餌量は接種蚕は健康蚕より摂食量が減少するので、標準給餌量の約80%とした。給餌回数は1日目と3日目の2回とし、蚕の回収は5齢5日目に行った。
 システムを2万頭の飼育量で、4人の作業人数と想定して、各行程の所要時間を図に示した。  5齢1日目の行程では、材料蚕の調整、接種、給餌及び片づけの作業があり、補助者を含め実験者 11名で約3時間を要した。4人作業に換算した所要時間は、接種では約2.3時間、材料蚕の調整に2.3時間、飼育機への移動に0.5時間で、合計で5.1時間と試算され、効率化が必要と考えられた。
 5齢5日目の行程では、接種蚕の収集、凍結、片づけ等に4人で3時間と試算された。
 体液採取は凍結保存した蚕の脚を切除し、バッファーに入れ出血させ採取した。体液採取と片づけでの所要時間は、4人で6.3時間と試算され、凍結した蚕を手で扱う作業でもあり、機械化、効率化が特に必要な行程であると考えられた。

 これらにより、一週間サイクルで、2万頭規模の有用物質生産系のプロトタイプが作られたが、この作業体系は、簡単な器具を用いた主として人力による作業によるものであり、今後機械の開発等効率化を進めていく必要がある。
 

(遺伝育種部 加藤正雄)
 
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