冷たい空気が肌を刺すような93年の真冬、夕日が沈む綺麗な博多港を見下ろしながら福岡空港に着きました。出迎えの先生と車に乗って、馴染みのない道を1時間半程走り、ようやくアパートに入りました。異国と言う緊張からの開放感と遠い道程の疲れのためか見知らぬ所の寂しさを感じる余裕もなく、眠ってしまいました。これが、素朴で優しい人々、人情の溢れる心温かい町、佐賀での留学生活の始まりでした。
それから、1年後、隣町の鹿島でのホームステイに夫婦で参加する機会があって、あるお爺さんの所でお世話になりました。お爺さんは、優しくて温厚な性格の方で、昔のお話を夜遅くまで聞かせてくれました。その中で、自分は韓国生まれで、小学校まで通い続けた事と時間の許す限り韓国を旅し続けている事を話されました。自分の生まれ故郷の幼い頃の想い出を話すその夜、お爺さんの姿からは、昔の思い出以上の何かが伝わって来るような事を感じました。後日、国に帰ったら私達と一緒に旅しようと約束し、その日を待ち望んでいるように見えました。そのお爺さんとの付合いは今日まで続いています。しかし、最近、80才を迎えようとするその方は不自由な身となり、自分の生まれ故郷には夢でしか行く事が出来ません。今、私に出来る事は少しでも元気になられるようお祈りを捧げるだけです。
韓国の人々は、“袖振り合うも多生の縁”とよく言い、言葉の通り“縁”を大事にする習慣があります。お爺さんとの出合いも、何かの縁があっての出来事かも知れません。一見些細な事にも見えますが、私にとっては、決して忘れられない大事な思い出だと感じています。
最後に、本研究所では、カイコをモデルとした害虫のBT剤抵抗性機構の究明を進めています。この研究に当たり、皆様には大変お世話になると思いますが、何卒宜しくお願い致します。