蚕糸昆虫研ニュース No.45(1999.12) 
<研究と技術>
シルクの新規用途開発
−プレスド・シルク及びシルクブラシ類の開発−

 シルクの需要拡大を図るためには、和装以外の洋装・寝具類・インテリア製品・工業用資材あるいは日用品等、これまでシルクがあまり入り得なかった分野へ幅広く展開することが必要です。このようなことから、これまで寝具用シルクウェーブ、インテリア用シルクシェルなどを開発してきましたが、さらにシルクの用途拡大を図るため、平面絹(プレスド・シルク)及びブラシ・刷毛類を開発しました。

1.プレスド・シルク
 プレスド・シルクは、特殊な品種の蚕が作る平面繭に類似の繭糸によるフェルト構造を機械的に作ったもので、平面繭とは異なり様々な大きさや厚さの形状のものを任意に作ることができます。その製造方法は,煮熟繭から解離した繭糸1本1本を分離した状態で繰製したシルクウェーブを材料とし、繭糸がランダムでしかも平面状になるように広げ,それに適度の水分を与え、繭糸の保有する粘着性セリシンを膨潤させ、その後高温プレスすることにより、セリシンが繭糸相互を接着しフェルト状あるいはペーパー状のもの(プレスド・シルク)となります。
 プレスド・シルクの薄いものは、その光沢と繭糸の繊細さを活かした障子・襖紙・ランプシェード等に利用可能で(写真1)、厚いものはシルクの吸着性を活かしフィルターに,またシルクの保温性や吸湿性を活かし靴中敷として利用できます。さらに圧力をかけて固形とすることにより工業用資材への応用も可能となります。

2.シルクブラシ
  シルクは、そのドレープ性や光沢、深みのある色彩など外観の美しさばかりでなく、その構造と組成に由来する機能を持っているため、これまでもシルクタオルやシルク垢擦りなどが開発されています。これらは、いずれも織物としての利用ですが、今回シルク繊維そのものの特性を活かしたブラシ類を開発しました。通常、ブラシと言えば豚毛・馬毛などの動物の毛やナイロンなどの合成繊維が主で、ブラシ業界ではシルクは全くと言って良い程使われてきませんでした。シルクは柔らかく繊細な繊維というイメージが先行し、ブラシには適さないと思われていたからです。
 シルクブラシの製造には,生糸あるいはハイブリッドシルクを材料とし、ボディー用など比較的硬めのブラシや束子に用いる800デニール(約370μφ)や1000デニール(約410μφ)などの太繊度生糸は、繰糸中に生糸に撚りを掛け糸に丸みを付与する撚糸繰糸機によって行いました。一方、化粧用の柔いブラシに用いる10デニール(約40μφ),14デニール(約50μφ)の生糸は、細繊度繭を原料とし通常の自動繰糸機で繰製しました。
 以上の生糸はタンニンによるセリシン定着を行った後にブラシに成形し、長期間使用(乾・湿潤状態)による性状変化試験及びモニター調査を行いました。その結果、セリシン定着を施したものは水浴中で実用に耐えうる形態を保持し、肌触りが非常に良く、ボディー及び洗顔用に適することが分かりました。セリシン定着を施さないものは乾状態での使用が適当であり、化粧用・ボディー摩擦用(乾布摩擦の代用品)などの日用品あるいは工業用ブラシなどへの利用が可能です(写真2)。
 

                         (生産技術部 製糸技術研究チーム 高林千幸) 
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