絹糸を物理的に粉砕する場合、絹糸は引張り強度が高く直接粉砕することができないため、粉砕の前処理が必要です。従来の物理的粉砕方法としては、加圧・加熱後に減圧膨化して絹糸を分繊化した後に粉砕する方法や、絹糸を長さ方向に短く切断した後に粉砕する方法があります。しかし、いずれの場合も微粉末化する際に絹糸の構造が壊れ、非結晶化が起きます。これに対し、絹糸をアルカリ処理して引張り強度を低下させ粉砕する方法では絹糸の構造が壊されにくくなります。数年前にこの方法で、手触りに優れ、絹糸の構造を有する粒子径5μmの微粉末化に成功しました(蚕糸昆虫研ニュースNo.28)。その当時、物理的粉砕による結晶性絹微粉末の製造方法では3μm程度が限度と言われていましたが、絹糸の強度を均一に低下させる方法を開発するなど、その後の研究により約1μmの超微粉末化に成功しました(写真1:左)。
一般に粒子径が小さくなると表面積が大きくなるため手触り、凝集性、付着性等が向上するだけでなく、物質特有の機能性が現れやすくなります。
化粧品には各種の粉体が使用されています。それらの粉体は成形性が低く、主にタルクやマイカ等の粘土鉱物や金属酸化物を原料としています。また、これらの粉末には吸・放湿性や透湿性はなく、皮膚に密着すれば皮膚呼吸を阻害し、タルクのように発ガン性を有していると言われているものもあり、皮膚に適合する素材とはいえません。このため、皮膚の健康の面から化粧用としての機能を備えたうえで、皮膚との適合性がよく成形性に優れた新素材が求められていましたが、絹微粉末はこれらの機能を備えた素材であることが分かってきました。
結晶性絹超微粉末は絹糸と同様の複屈折を示し、絹糸の構造を保持した結晶性の粉末です。その特徴は結晶性絹超微粉末のみで化粧用粉体素材として必要な成形性(写真2)、延展性、手触り等の機能を備えているだけでなく、パッチテストの結果では皮膚に対し刺激性がなく、さらに染色性に極めて優れている等、化粧用素材として従来にない機能を有していることが認められました。現在、従来の粘土鉱物、金属酸化物を結晶性絹超微粉末で置き換えた皮膚に優しい新化粧料開発への展開を試みています。
タルク
マイカ
チタン
結晶性絹超微粉末