は古より主に衣料として利用されてきましたが、近年では絹タンパク質機能に着目した他用途への利用が行われつつあります。絹粉末の研究は昭和20年代からあり、その加工方法は絹糸(直径10〜25μm)を溶解後に凝固・粉砕する方法と、絹糸を物理的に粉砕する方法の2つに大別されます。絹粉末の構造と物性は加工方法によって異なり、絹糸を溶解した後に粉末化した場合には絹糸の構造(分子は繊維軸方向に配向)が残りません。ところが、絹糸を物理的に粉砕して得た粉末には絹糸の構造が残ります。この絹粉末は水に不溶で硬いことから、利用面での手触りを向上させるため、粉末粒子を微細化する必要がありました。

 絹糸を物理的に粉砕する場合、絹糸は引張り強度が高く直接粉砕することができないため、粉砕の前処理が必要です。従来の物理的粉砕方法としては、加圧・加熱後に減圧膨化して絹糸を分繊化した後に粉砕する方法や、絹糸を長さ方向に短く切断した後に粉砕する方法があります。しかし、いずれの場合も微粉末化する際に絹糸の構造が壊れ、非結晶化が起きます。これに対し、絹糸をアルカリ処理して引張り強度を低下させ粉砕する方法では絹糸の構造が壊されにくくなります。数年前にこの方法で、手触りに優れ、絹糸の構造を有する粒子径5μmの微粉末化に成功しました(蚕糸昆虫研ニュースNo.28)。その当時、物理的粉砕による結晶性絹微粉末の製造方法では3μm程度が限度と言われていましたが、絹糸の強度を均一に低下させる方法を開発するなど、その後の研究により約1μmの超微粉末化に成功しました(写真1:左)。

 一般に粒子径が小さくなると表面積が大きくなるため手触り、凝集性、付着性等が向上するだけでなく、物質特有の機能性が現れやすくなります。                 
 化粧品には各種の粉体が使用されています。それらの粉体は成形性が低く、主にタルクやマイカ等の粘土鉱物や金属酸化物を原料としています。また、これらの粉末には吸・放湿性や透湿性はなく、皮膚に密着すれば皮膚呼吸を阻害し、タルクのように発ガン性を有していると言われているものもあり、皮膚に適合する素材とはいえません。このため、皮膚の健康の面から化粧用としての機能を備えたうえで、皮膚との適合性がよく成形性に優れた新素材が求められていましたが、絹微粉末はこれらの機能を備えた素材であることが分かってきました。

 結晶性絹超微粉末は絹糸と同様の複屈折を示し、絹糸の構造を保持した結晶性の粉末です。その特徴は結晶性絹超微粉末のみで化粧用粉体素材として必要な成形性(写真2)、延展性、手触り等の機能を備えているだけでなく、パッチテストの結果では皮膚に対し刺激性がなく、さらに染色性に極めて優れている等、化粧用素材として従来にない機能を有していることが認められました。現在、従来の粘土鉱物、金属酸化物を結晶性絹超微粉末で置き換えた皮膚に優しい新化粧料開発への展開を試みています。

(機能開発部 物性評価技術研究室 坪内紘三)
 
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蚕糸昆虫研ニュース No.46(2000.3)

<研究と技術>  
絹から皮膚に優しい化粧品を作る
 −結晶性超微粉末の開発−

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

  

 

 

 

 

 

 

 

 

 
 

写真 1 走査型電子顕微鏡写真
既に開発済みの結晶性絹微粉末(写真右)
今回開発した結晶性絹超微粉末(写真左)
カオリン

タルク

マイカ

チタン

結晶性絹超微粉末

写真2 粉末の成形性
  化粧用の各粉末を10o(W)×100o(L)×30o(H)の型に入れ、加圧成形した。タルク、マイカ、チタンは壊れやすいが、結晶性絹超微粉末は成形性がよく、成型用バインダとしても使える。