エチレンを大量生産する細菌は、15年程前に、農業生物資源研究所(筆者ら)と静岡大学で、2種類(ダイズ菌とクズ菌)、発見されました。これらの細菌は、それまで発表されていたエチレン生産細菌の100〜1,000倍という「大量の」生産量を示し、最高のエチレン生産能力を備えていました。それ以降、これを超す細菌は見つかりませんでした。その間、基礎研究は進み、熊本工業大学のグループがこれら細菌のエチレン生成酵素を明らかにし、さらに、その遺伝子efeを単離しました。私達はこの遺伝子を増幅させる方法(PCR法)を用いて、昆虫や植物から分離した多数の細菌株の中から, efe遺伝子をもつ細菌を見けることに着手したのです。
当初期待していた昆虫腸内細菌からは見つかりませんでしたが、新たな2種類の細菌が植物病原細菌(ゴマ菌とアサ菌)の中から見つかってきました(図1)。同じころドイツの研究グループが同様にPCR法でエチレン生産菌の探索を行い、論文発表しましたが、新たなものは見つかっていませんでした。私達の共同研究者(農業環境技術研究所、静岡大学)の多様な細菌コレクションが功を奏しました。
efe遺伝子をもっていても、エチレンを生産するとは限りませんので、検定してみました。ゴマ菌とアサ菌は、既報の2種類と同レベルの大量のエチレンを生産したのです。4横綱の誕生です。これらは、いずれもシュウドモナス・シリンゲ群細菌に属するものです。この細菌群は植物に対する寄生性が異なる50以上の病原型(pathovar)から成っていますが、そのうち4病原型のみが、エチレン生産能をもっていたのです。
もうひとつ、新しい発見がありました。ゴマ菌以外の3種類の細菌の約100kbのプラスミド上にefe遺伝子が乗っていたのです。そして、その「エチレンプラスミド」はなんと、類縁の細菌に移行し、その細菌を強力なエチレン生産菌にしてしまいました。この細菌は植物に病原性がないので、将来利用する時に便利かも知れません。また、これは基礎研究としても非常に興味深いところです。
今回、発見した細菌がすぐにバイオプラントに利用できるというわけではありません。エチレン生産効率
(約2,000 nl / mg/ h)を考えると、現行の化学プラントと比較して、コスト的にはとても対抗できないと思います。しかし、微生物の大幅な能力アップは可能ですし、前述のように、化石燃料の時代は永くは続きません。微生物の助けを借りる時代は必ずやってきます。私達は、その時まで、優良微生物資源としてこれらの細菌を残しておこうと思っています。