サクサンフィブロイン遺伝子は14アミノ酸残基をコードする第1エクソンと2,625残基をコードする長い第2エクソンが120bpのイントロンによって分断された構造をしています。遺伝子の大部分は反復配列からなるいわゆるコーディングミニサテライト配列です。ミニサテライト配列は生物のゲノム中の不安定な反復配列領域で、不等交叉と遺伝子変換により高頻度で長さと構成を変えています。コーディングミニサテライト配列は蛋白質をコードするミニサテライト配列です。図1には内部構造の反復性を検証するためのサクサンフィブロイン遺伝子どうしのハープロット解析の結果を示しました。この解析では一般的な遺伝子の場合対角線が1本引けるだけですが、図1では対角線以外にそれに平行な直線が複数観察され、遺伝子の一部が異なる位置での重複していることが分ります。
サクサンフィブロイン遺伝子はコーディングミニサテライト配列として挙動している訳です。ここで得られたサクサンフィブロインは2,639残基長ですが、この遺伝子の構造はこの値を定数とはしません。むしろ変数なのです。
上記の反復配列の各単位はポリアラニンを含むアミノ酸配列(モチーフ)をコードしています。計80個のモチーフが第2エクソン内にあります。図2に示すように80個のモチーフからなる部分では親水部と疎水部が交互に現れます。これはポリアラニンの下流域に親水性のチロシンやアスパラギン酸等のアミノ酸が含まれていることによります。アミノ酸含量に目を転じるとアラニン、グリシン、セリンで全体の81%を占めていますが、これは構造的には著しく異なる家蚕フィブロインH鎖と類似しています。繊維蛋白質であるための必然なのかもしれません。
現在、私達の研究はヤママユガ科に属する、テンサン、エリサンのフィブロイン遺伝子も単離し、構造決定を終了しています。