昆虫類を用いて新素材・新機能性物質の生産を行なうには,資源である昆虫類の低コスト,安定かつ通年自動飼育を可能とする大量自動飼育技術の開発が基盤技術として重要な課題です。そのため、カイコを利用した有用物質生産システム開発研究の一環として,コンピュータを中枢とした制御システムにより清浄空気環境下で通年自動飼育が可能な飼育施設の構築と自動運転が可能な飼育装置の開発を行なっています。
カイコを利用した有用物質生産では遺伝子組換え操作を行なうことから,安全面の配慮と発育面での良好な飼育環境を保つためのカイコ飼育作業の無人・自動化の一環として、人工飼料の全自動給餌システムの開発を行ないました。飼育作業者の出入りにより,飼育室内に外界の雑菌やウイルスを持ち込む可能性が高くなりますので,清浄環境を維持するためには,作業者の関与を最小にし,無人での飼育管理を実施することが必要です。
人工飼料全自動給餌装置の設計開発を行ない,飼育装置と給餌装置の運転を一体化した統合化システムを構築し実用化を図りました。開発した装置(図1)は,粉体と熱湯との混合による人工飼料の調製から,ペースト状飼料の移送,飼育箱上への給餌までの一連の作業を連続かつ自動的に実行できます。
人工飼料粉体は攪拌器で熱湯と混合調製されペースト状飼料に加工され,この飼料は供給ポンプにより移送用パイプを経て充填弁まで移送され,3軸ロボットにより飼育箱の任意の位置に給餌が実施されます(図2)。
カイコ飼育装置と給餌装置は連動して運転制御が行なわれ,飼育箱が給餌装置の所定の位置に移動すると,飼育箱検出センサーにより箱の到着を感知して,供給ポンプの運転,3軸ロボットによる充填部の移動及び充填弁の開閉等の給餌動作が開始されます。飼育箱上への給餌が終ると,給餌装置制御盤からカイコ飼育装置コントローラへ給餌完了信号が送られ,飼育箱は元の飼育位置へ戻されます。
このような一連のシステムにより,給餌の無人自動化に伴うカイコ飼育における清浄環境の維持が可能となると共に,飼育作業の省力化がもたらされました。さらに,従来は湿体人工飼料の冷蔵保存が不可欠でしたが,このシステムでは湿体飼料の冷蔵貯蔵施設が不要となることから生産コスト削減効果が得られました。
人工飼料の全自動給餌システムの開発により,清浄空気環境下で2万頭規模のカイコの自動飼育が可能となり,蚕糸・昆虫農業技術研究所が推進しているCOE研究課題の有用物質生産の拠点として利活用が促進されています。
また,昆虫類を利用した新産業創出の基盤的役割を担う昆虫大量自動飼育システムのパイロットプラントとして国内外に広く公開され,昆虫を利用した新たな産業創出に向けての展開と推進のための先導的な役割をはたしていくものとして期待されています。