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発表概要: イネの健全な生育と安定多収には葉、茎、穂などに5%以上のケイ素の集積が不可欠です。ケイ素はこれらのイネの組織を丈夫にし、多くの病虫害や倒伏、他の多くのストレスを軽減することができます。我々はケイ素を効率よく吸収し、イネの生育に不可欠な新規遺伝子を同定しました。
発表内容: ケイ素は、土壌中で酸素につぎ2番目に多く存在し、すべての植物に含まれる元素です。ケイ素は、多くの植物に対して様々なストレスを軽減する有益な作用を持っています。特にイネの健全な生育と安定多収には不可欠であるため、日本では農業上の必須元素として位置づけられており、稲作における重要な栽培技術の一環としてケイ酸肥料施用が確立しています。イネはケイ素が不足すると、倒伏しやすくなり、病虫害(特にいもち病)に対する抵抗性が弱くなり、また群落の光合成能力も低下し、その結果生産性が著しく低下します。イネは必須元素のチッソやリン、カリウムよりも数倍のケイ素を集積します。この高い集積能力は根の吸収能力に起因するとされています。吸収に関与する遺伝子は昨年我々によって一つ同定されましたが(Nature誌に発表)、この度、岡山大学資源生物科学研究所・馬教授のグループは農業生物資源研究所などとの共同研究で、世界ではじめてイネのケイ酸吸収を司る新規遺伝子を同定し、ケイ素を効率よく吸収するイネの仕組みの解明に成功しました。この成果は7月12日に出版される英科学誌「ネイチャー」に発表されます。
イネの高いケイ酸吸収能に関与する遺伝子を単離するために、イネのケイ酸吸収がなくなる突然変異体を探し出しました。変異体を利用してケイ酸の吸収に関わる遺伝子をクローニングしたところ、単離した遺伝子(Lsi2)は二つのエクソン、一つのイントロンから構成され、472個のアミノ酸からなる11個の膜貫通ドメインを持つ膜タンパク質をコードしていました。Lsi2タンパクはアニオントランスポーターに属しています。この遺伝子は主に根において常に発現していますが、その発現量はケイ酸の有無によって変動し、ケイ酸が十分にある場合と比べ、ケイ酸がない場合は4倍に増加しました。また根の先端に少なく、基部側に多く発現していました。さらに、ケイ素の要求量が多い出穂前後に発現量の一時増加が見られました。またLsi2は昨年我々が同定したLsi1と同じく根の外皮と内皮細胞に局在していますが、Lsi1は細胞の遠心側に局在しているのに対し、Lsi2は向心側に局在しています。アフリカツメガエルの卵母細胞にLsi2を導入し、輸送活性を測定した結果、Lsi2はケイ酸に対して、外向きの活性が認められました。これらのことはLsi1によって遠心側から細胞内に取り込まれたケイ酸をLsi2が向心側に排出することによって効率的なケイ酸の吸収と濃縮を実現していると考えられました。
ケイ素の有益効果は主に地上部の各器官に大量に沈積することによって発揮されます。したがって、本研究で同定したイネのケイ酸トランスポーター遺伝子は農作物の品種改良に大きく貢献すると考えられます。例えば、イネのトランスポーター遺伝子を他の植物に導入し、これらの植物のケイ酸吸収能を遺伝的に改変すれば、土壌に豊富に存在するケイ酸を吸収し、病虫害など複合ストレスに強い作物の作出が可能です。これは減農薬農業につながります。また、アンチセンスやRNAiの手法を用いて、イネのケイ酸吸収能を抑制すれば、低ケイ酸含量の飼料用イネの作出が可能です。さらに、低ケイ酸含量の稲わらを作れば、製紙やバイオエタノールなどの原料に使う場合、機械の損傷を軽減することができます。
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