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解禁時間は、7月3日(火曜日)
午前4時(新聞は朝刊から)
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プレスリリース
平成24年6月29日
独立行政法人 農業生物資源研究所

昆虫の『変身』を抑える遺伝子のスイッチのしくみを
世界で初めて解明

- 狙いの害虫にのみ作用する薬剤の開発に期待 -


ポイント
  • 幼若ホルモン(JH)は、「Kr-h1」という、昆虫の「変身(変態)」を抑える遺伝子のスイッチをオンにして働かせることが知られています。
  • 生物研では、カイコを用いて、そのスイッチのしくみを世界で初めて明らかにしました。
  • JHは、「MET」と「SRC」の2種類のタンパク質を介して、「Kr-h1」遺伝子の「JH応答配列」に結合し、この遺伝子のスイッチをオンにします。
  • このスイッチのしくみは多くの昆虫に共通なものと考えられます。
  • 本研究成果を応用し、JHの作用を妨げる物質の効率的なスクリーニング法を開発しました。
  • 本法を用いて、狙いの害虫にのみ効果を示し、他の昆虫には悪影響の少ない薬剤(抗JH剤)の開発が期待されます。

概要

  1. 幼若ホルモン(JH)1)は、昆虫の幼虫から蛹への「変身(変態)」を抑える作用を持つホルモンです。最近、甲虫の一種であるコクヌストモドキから、変態を抑える作用を持つ遺伝子「Kr-h1」が見つかり、JHはこの遺伝子を活発に働かせることによって変態を抑えていることがわかりました。しかし、その詳しいしくみはわかっていませんでした。
     今回、(独)農業生物資源研究所(生物研)は、カイコの培養細胞2)を用いて、JHがKr-h1遺伝子を働かせるしくみを世界で初めて明らかにしました。
  2. カイコのKr-h1遺伝子から、この遺伝子を働かせるスイッチの役割をするDNA配列「JH応答配列」を見つけました。通常、カイコの培養細胞にはJHがないためにKr-h1遺伝子は全く働いていませんが、JHを加えると、「MET」と「SRC」という2種類のタンパク質がKr-h1遺伝子のJH応答配列に結合することでスイッチが入り、Kr-h1遺伝子が働きだすことがわかりました。
  3. ショウジョウバエ、ミツバチ、甲虫、アブラムシなど、他の昆虫のKr-h1遺伝子にも良く似たJH応答配列が見つかりました。また、これらの昆虫はMETとSRCの遺伝子も持っていることから、変身を抑えるスイッチのしくみは、昆虫に共通なものと考えられます。
  4. 本研究の成果を応用し、カイコ培養細胞を使って、JHと同じ作用を持つ化合物や、JHの作用を妨げる化合物を、効率的に探す方法(スクリーニング法)を開発しました。この方法は、ヨトウガなど狙いの害虫には効果を示すが、ミツバチや天敵昆虫などには悪影響を及ぼさない、環境に優しい薬剤の開発に役立つものと期待されます。
  5. この成果は、平成24年7月2日(月曜日)午後3時(米国東部時間)以降に米国科学アカデミー紀要で発表される予定です。
予算区分:農研機構・生物系特定産業技術研究支援センター「新技術・新分野創出のための基礎研究推進事業」(平成17-21年度)
特許出願中(国内):出願番号 特願2009-115312、出願日2009.5.12
参考資料 [PDFファイル:167キロバイト]
【発表論文】 Kayukawa T, Minakuchi C, Namiki T, Togawa T, Yoshiyama M, Kamimura M, Mita K, Shigeo Imanishi S, Kiuchi M, Ishikawa Y, Shinoda T (2012) Transcriptional regulation of juvenile hormone-mediated induction of Krüppel homolog 1, a repressor of metamorphosis, in Bombyx mori. Proceedings of the National Academy of Sciences of the United States of America, Published online before print July 2, 2012, DOI:10.1073/pnas.1204951109 OPEN ACCESS ARTICLE

問い合わせ先など

研究代表者: (独)農業生物資源研究所 理事長石毛 光雄
研究推進責任者: (独)農業生物資源研究所 昆虫科学研究領域 
昆虫成長制御研究ユニット ユニット長 篠田 徹郎
電話:029-838-6075、電子メール:shinoda@affrc.go.jp
研究担当者: (独)農業生物資源研究所 昆虫科学研究領域 
昆虫成長制御研究ユニット 任期付研究員 粥川 琢巳
広報担当者:(独)農業生物資源研究所 広報室長井濃内 順
電話:029-838-8469

【掲載新聞】 7月3日(火曜日):化学工業日報、7月4日(水曜日):日刊工業新聞、7月5日(木曜日):日経産業新聞、7月13日(金曜日):科学新聞、7月17日(火曜日):日本農業新聞、毎日新聞

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