国立大学法人筑波大学生命環境系の丹羽隆介准教授、同生命領域学際研究センターの深水昭吉教授と廣田恵子助教、島田裕子研究員、同生命環境科学研究科の大学院生の小村(加和)達也と山内理恵子、国立研究開発法人農業生物資源研究所の篠田徹郎ユニット長らは、キイロショウジョウバエを用いて、昆虫の発育に必要なステロイドホルモンの生合成に重要な役割を担う新規タンパク質「Ouija board(ウィジャボード)」(注4)を発見しました。
ステロイドホルモンは、生物種を問わず、個体の発育や恒常性の維持、さらには性成熟に重要な役割を担います。ステロイドホルモンの生合成は、何段階かの酵素反応を経ることで実現されます。これまでの国内外の研究によって、ステロイドホルモン生合成酵素の同定と機能解析については解明が進み、これらの酵素はステロイドホルモンを生合成する器官でのみ働くことがわかっています。一方、特に昆虫を含む無脊椎動物において、生合成酵素が生合成器官に限定して存在するメカニズムは、ほとんど解明されていません。
本研究では、ウィジャボードが、昆虫ステロイドホルモン(脱皮ホルモン)の生合成に必要な酵素遺伝子の発現を調節することを明らかにしました。興味深いことに、ウィジャボードは、様々な生合成酵素遺伝子のうち、たった1つの遺伝子の発現のみ調節することがわかりました。また、ウィジャボードは、ハエ科昆虫にしか存在しません。以上の結果から、キイロショウジョウバエはたった1つの酵素遺伝子のためだけに特別な調節メカニズムを持っていることが強く示唆されました。今回の成果は、動物のステロイドホルモン生合成メカニズムとその進化について新知見をもたらすと共に、昆虫にのみ作用するような「環境にやさしい農薬」の開発にも新たな考え方を与えると期待されます。
本研究の成果は、日本時間2015年12月11日午前4時に「PLOS Genetics」で公開されます。
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