| プレスリリース |
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平成13年7月4日
独立行政法人 農業生物資源研究所明治薬科大学 |
[背景・ねらい]
蛇毒には様々な毒タンパク質が多数含まれていることが知られている。ヘビ毒タンパク質は血液凝固、血小板凝集、細胞接着の分子メカニズムを調べる道具として重要視されているばかりでなく、すでに止血薬、抗血栓薬としての臨床応用もなされている。[成果の内容:特徴]
独立行政法人農業生物資源研究所の水野洋チーム長のグループは、明治薬科大学の森田隆司教授のグループとの共同研究により、蛇毒が血液凝固を阻害し出血する仕組みを解明し、米国科学アカデミー紀要の6月19日号に発表した。まず台湾の百歩蛇毒より血液凝固を阻害する毒タンパク質を単離した。百歩蛇は五歩蛇ともいわれ、この毒蛇に噛まれると百歩、又は五歩以内で死に到る猛毒を持つことから、この名がつけられ恐れられている毒蛇である。今回単離した凝固X因子結合タンパク質(X-bp)と凝固X因子のタンパク質の重要な部分であるGlaドメインとの複合体を調製後、結晶化し、さらにX線結晶構造解析法により、その立体構造を明らかにした。GlaドメインにはGlaと呼ばれている陰性荷電したビタミンK依存性の酸性の特殊アミノ酸が12個含まれているが、解析の結果、両者の結合の中心部分はX-bpの陽性荷電した塩基性アミノ酸領域と陰性荷電のGla残基とが直接に、あるいはカルシウムを介した結合により、しっかり結合していることが明らかになった(図3)。この結果、蛇毒由来の毒タンパク質X-bpはGlaドメインに特異的に結合することによって、X因子が生体膜に結合することを出来なくするという巧妙な方法で、凝固因子の活性を消失していることが明らかとなった(図2)。この結果、血液凝固カスケードの反応が停止し、血液凝固が起こらなくなり、出血し、死に到る。[今後の展開]
蛇毒タンパク質X-bpは、天然に存在する抗凝固作用をもつタンパク質であり、今回の研究により新しい抗凝固薬を設計する重要な考えが提案できた点に価値がある。現在、新薬開発が盛んに行われているものの臨床で用いられている抗凝固薬の種類は少く、凝固因子の酵素の活性領域の触媒部位を失活させる新薬の開発が盛んに試みられている。ところが、生体内には酵素の活性領域に類似したトリプシンやキモトリプシン等の重要な酵素が多数含まれている。従って、このような薬は、トリプシンの様な生体内の重要な酵素にも作用する性質を兼ね備わる可能性があり、これが副作用の一因にもなりかねない。この点、今回の抗凝固タンパク質の様にGlaドメインの機能を効果的にブロックする新薬を開発すれば凝固因子のみをターゲットにした抗凝固薬の創薬が可能となる。Glaドメインは、生体内では血液凝固因子のみにしか存在せず、新しい血液凝固阻害剤の格好のターゲットとなる。つまり従来の様に酵素活性領域をターゲットにするのではなく、血小板の生体膜結合部位であるGlaドメインの活性を効果的に阻害する新薬の開発も視野におくことが重要であると思われる。今回の凝固X-bpと凝固X因子のGlaドメインとの複合体解析により両者の相互作用部位での立体構造についての情報は、結合活性が高い抗血液凝固薬の開発のための分子設計をする上で役立つものと期待される。
| 研究責任者 |
独立行政法人農業生物資源研究所 理事長 桂 直樹 明治薬科大学 学長 坂本正徳 |
| 研究推進責任者 |
独立行政法人農業生物資源研究所 生体高分子研究グループ長 渋谷直人 電話 0298-38-8391 明治薬科大学教授 森田隆司 電話 0424-95-8479 |
| 研究担当者 |
独立行政法人農業生物資源研究所 生体高分子研究グループ 蛋白機能研究チーム長 水野 洋 電話 0298-38-7014 明治薬科大学教授 森田隆司 電話 0424-95-8479 |
| 広報担当者 |
独立行政法人農業生物資源研究所 企画調整部 広報普及課長 宮前正義 電話 0298-38-7004 |